「兵士たちよ、武器を捨てて家庭に戻りなさい」。深刻な表情でカメラに向かって国民に訴えているのは、ウクライナのゼレンスキー大統領。あれ、侵略してきたロシア軍と懸命に戦っている最中なのに、一転、白旗を揚げて降参するのか。誰もが一瞬キョトンとした演説動画が世界中に拡散したのは去年の話。すぐにこれはフェイク動画と判明しましたが、大統領の顔も声も本物そのもの。では、どのように作られたのか。人工知能(AI)を駆使して製作したディープフェイク画像を、SNSで急速拡散した産物でした。今やこんなことは専門家でなくても可能な時代です。静止画、写真が1枚あれば簡単にフェイク画像は作れるし、SNSに自分の音声を残していたら複製されるリスクがあることを忘れないでと専門家が注意を呼びかける時代です。
でも多くの人は昨年、AIが以前よりもっと便利になったことを実感しています。米国発のチャットGPTというアプリが公開されて、日本でも企業だけでなく個人でも使えるようになり、まるで人間が作ったかのような、いや人間以上に精巧な文章や画像を生み出してくれるのに感心しきりです。生成AIと名付けられたこの代物は、単に便利な道具にとどまらず、このまま進化すると人類を破滅させるリスクを持っているという恐ろしい存在にもなりかねません。すでにアメリカではパンデミック、核戦争と並ぶ人類絶滅のリスク、5~10年以内に人類を破滅させる潜在的可能性があると生成AIの危険性への認識が高まっており、AI規制ルール作りを命ずる大統領令が出されました。ヨーロッパでも昨年6月、欧州連合(EU)が世界で初めてAI規制法案を採択して、人の生命や基本的人権に直接脅威をもたらすリスクがあるものには利用禁止を定めました。さらに進化した自立AIとなると、人間の指示を聞かず、人間に命令する存在になり得ると警鐘を鳴らす研究者が多くいます。
2024年という時代を、どうとらえたらいいのか。現代を第四次産業革命下にあると唱える経済学者は、第一次の蒸気機関、第二次の電力、第三次のコンピューターに続くデジタル化こそ文明の大変革をもたらすと歴史的意義を説きます。では、そのまっただ中にいる私たち一人ひとりは、どんな影響を受け、どのように生きたらいいのか。まず、人間がやってきた仕事の多く、とくにホワイトカラーの仕事がAIに取って代わられ、ブルーカラーの仕事に流れる傾向が強まり、その結果、貧富の二極化が加速されそう。またAIによるフェイク情報が蔓延する社会になると、情報の渦の中からウソと事実(FAKEvsFACT)を見極める感性と哲学を、個々人が鍛える必要が強まります。つまり偽情報にだまされない体質が生きる条件になります。すでに各種のデジタル詐欺の被害が世界中に広がっており、デジタル社会は人間をうつにするとの指摘も出ています。AIの生みの親で元グーグル副社長のジェフリー・ヒントン氏は5~20年後には人間より賢くなっている。まだ私たちがAIより賢い今のうちに、AIが支配権を握るのを阻止する方法を考える必要があると怖い予測を口にしています。時限爆弾に火はついている。さあ、あなたは今年、何とどう戦いますか。
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