メジャーリーグに比べたら日本のプロ野球はあまり面白くない。ここ数年、こんな声が広まってきたような印象があります。そう、あの大谷翔平選手の投打二刀流の大活躍で、アメリカ野球をテレビで見る機会が多くなり、パワーとスピードにあふれる個性的なスター選手たちの魅力に引き込まれた日本人が急増しました。人気選手がメジャー入りする人材流失が続くと、日本のプロ野球は大丈夫なのかという心配の声も大きくなります。でも、安心してください今年のプロ野球は面白いですよ。今シーズンのセ・パ両リーグの覇者、阪神タイガースとオリックス・バファローズ。その優勝要因を分析すると、阪神の岡田彰布(66)、オリックスの中嶋聡(54)両監督のリーダーシップや球団のマネジメントに、企業管理職や経営者の世界にも有用な成功要因が含まれているという経済学者までいるようです。
もしあなたが、あるプロ野球の球団から今季ぜひ優勝を!という条件で監督を任命されたら、どういうチームを作りますか。できるだけ経験と実績のある選手を集めて、即戦力となる軍団を組織するというチーム編成案がきっと多いでしょう。常勝を背負わされている人気球団は、他チームの4 番打者やエースを引き抜いてスター軍団を作ってきた歴史がありますが、なかなか優勝できないという現実にぶつかっています。おそらく高度成長期の成功体験にしがみついた結果ではないでしょうか。今季優勝した両チームは、その反対を実行したのでは?まず、即戦力結集と今季優勝を断念し、才能を見込んだ10 代、20代の若者をドラフトで獲得して自前で数年かけて鍛えて育成する、過去の成績や数字だけでレギュラー選手にするのではなく、一軍と二軍の敷居を低くして誰でも今好調な選手を試合に使う、そのためにはコミュニケーションを密に保ち現場とのチャンネルを常にオンにして風通しを良くする、という方針に徹底したことに尽きます。阪神の優勝を決めた試合では、外国人選手を除いて先発9 人中8 人がドラフト入団の育成生え抜き組でした。
若い世代と上司との関係は企業社会では今、デリケートで悩ましい問題になっています。熱心な指導をする先輩も、今ではパワハラ・セクハラなどと糾弾されかねません。野球界でも一昔前のスポーツ根性論が支配的な時代は、エラーしたら懲罰ノック100 本、10 キロ罰走、丸坊主に刈り上げなどが珍しくありませんでした。その点、両監督は親子ほど年の離れた選手たちと、「おい何しとんねん」「あまり調子のんなよ」と一見きつい言葉も関西弁の柔らかさに包んで直接やりとりしながら、努力して力をつけてきた選手を必ず試合で使うことを繰り返して、選手に寄り添う姿勢を示してきました。どんなに言われようと、自分の今を見てくれているという信頼感が若い選手の間にめばえて、次第にベンチ内で一体感ができてきたと言えるでしょう。流行語にもなった岡田監督の「アレ」も、遊び心の共有という点で老人と若者の壁を取っ払う効果がありました。1964 年以来59 年ぶりとなった関西球団同士の日本シリーズ。試合の結果とは別に、両監督が若い選手たちをどう動かしたか、その采配ぶりに目を向ける、という大人の見方をするのも楽しそうですね。
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