国消国産

卵や油類、それに肉・野菜など日常の食料品がこんなに値上がりしたら、私ら年金暮らしには苦しいです」「物価高に見合った賃上げがあったらまだしも、手取り収入がそれに追いつかない」。テレビでの街頭インタビューでは、老若男女のこういう声が日常になっています。3 年間に及ぶコロナ禍での生産・流通の混乱に加えて、1 年を過ぎたウクライナ戦争によるエネルギー・食糧危機が、今も重く日本列島にのしかかっています。値上げどころか、そもそも食べるものがなくなる、あるいは外国から入ってこない事態を想像する日本人はどれほどいるでしょうか。小麦、トウモロコシ、果物、食料油、肥料・飼料など、日常の食生活を支えている基礎物質の輸入パイプが細くなっている現実を、私たちは直視しなければなりません。お金さえ出せば、食料はどこからでも買える時代ではないのです。

こうした環境の変化に応じて、国民が必要とし消費する食料は、できるだけ、その国で生産しようという呼びかけが今、国民の中に広がりつつあります。日本人の食卓に食料を提供している全国の農畜産業410 万人を束ねる全国農業協同組合中央会(JA全中)が、コロナ禍の2021 年10 月に提唱したのが国消国産という造語でした。コロナ禍以前は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)など諸外国との経済連携によって、安くて良質な食料が輸入できて豊かな食卓が実現できるという農産物自由化論が政策の中心でした。でも幻想でした。平和と安全な貿易が大前提と気づかされました。日本の食糧自給率は4 割弱、6 割は輸入に頼っている現状です。もし、この6 割も断たれたらと悲観的な未来を想定すると、30 年までに自給率を45%にまで上げるという政府目標もまどろっこしく映ります。食料は工業製品と違い、ないからといって今すぐに作れるものではありません。日本での農畜産従事者の減少、自然災害の増加・激甚化に加えて、世界人口増加による食糧不足危機といった地球を取り巻く大潮流もあります。人類全体での食糧不足問題が深刻な解決課題になっています。

さすがにすべての食料を国産でというのは日本では無理だとしても、提唱者のJA中央は国消国産の意義を理解してもらい、生産者と消費者との絆が強く結ばれることを期待しています。とくに若者への働きかけを強めようと、人気アイドルグループ乃木坂46 を応援団にして、ウェブ上でメッセージを投げかけています。推しブームにならって、例えば米を推す担当は秋元真夏、肉は賀喜遥香、花は山下美月など7 人のメンバーがそれぞれに日本の大地からできる産物の良さをアピールしています。今の若い世代はカメラで目の前の食べ物を撮影して映(ば)えることに喜びを感じているようです。自分の食べ物に関心を持つこと自体はいいことですが、時々はこの食材は誰がどこで作ったものか、どういう経路でここまで来たのか、貧しい国・地域から略奪していないかという地球規模の思いも持てたらもっと素晴らしい。値上げを嘆くだけでなく、多くの食料が手に入らなくなった日を想像してみましょう。毎日何気なく見ているテレビ画面のなかの、戦争や地震や飢餓で苦しむ地球各地の人々の姿が、他人事(ひとごと)とは思えなくなってくるでしょう。

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