「ジャャパン・アズ・ナンバーワン」と日本が持ち上げられたのは1980 年代後半から90 年代前半。アメリカに次ぐGNP(国民総生産)世界2位にのし上がった爆発的経済力に、バブル全盛期の日本全体が酔っていました。それから30年後の今、米中に次ぐGDP(国内総生産)3位の地位がドイツに奪われる、一人当たりGDPも台湾や韓国に抜かれ、国の借金は1000兆円を超えて世界一の負債大国に転落と、寂しくなるようなニュースが目立ちます。今回は、もう一つの負債大国にスポットを当ててみましょう。睡眠不足が長く続く睡眠負債が世界最悪クラスだというのです。先進国クラブのOECD(経済協力開発機構)加盟30カ国の平均睡眠時間を調査したら(2021年)、全体の平均8時間24分に対して、日本人の平均睡眠時間は7時間22分とワーストワンを記録しました。
多少の睡眠不足くらい何でもないと強がる日本人も少なくはありません。でも疲労・倦怠感、イライラ・ストレスが溜まると、さまざまな生活習慣病に苦しみ、悪化すると、うつ病、認知症になるリスクが高まります。日本人はこれまで、受験生に対して4時間しか寝ずに勉強したら合格、5時間も寝たら不合格=4当5落を押しつけ、サラリーマンに対しては24時間戦えますかと過労死ギリギリの労働時間を是としてきた黒歴史があります。この3年間のコロナ禍で、通勤時間が減って自宅にいる時間が増えて睡眠時間は増える傾向ですが、眠った割りには疲れが取れないといった声が強くなっています。その不安と改善需要をうまくすくい上げたのが、睡眠の質改善を前面に打ち出した現在のドリンクブームでしょう。ヤクルトが宅配用に2019年発売した乳酸菌飲料「Yakult1000」と、店頭向けの「Y1000」がともに爆発的な売り上げを記録し昨年末の22年新語・流行語大賞のトップテンに入るなど社会現象にもなりました。それに刺激され、日清ヨーク、森永乳業、カネカ、アサヒ飲料など他メーカーも続々参入し、いずれもがよく売れていることからも、睡眠の質改善を願う人の多さがわかります。
もちろん医学界の治療、研究面も進んでいます。単なる睡眠時間の長さではなく、朝目覚めたとき、ああよく眠ったなという睡眠休養感が大事だという最新研究があります。およそ1万人対象の脳波計を付けた睡眠実証研究では、意外な結果が判明しました。この研究のリーダーを務め睡眠博士の異名を持つ栗山健一国立精神・神経医療研究センター部長によると、高齢者は積極的に眠る時間を減らせという。60 歳を超えると6 時間くらいの睡眠で十分、長く眠らないといけないという焦りと不安から眠れぬまま布団やベッドの中にいる床上時間が長くなると睡眠の質が低下し、睡眠休養感が低く8 時間以上の床上時間の人は逆に死亡リスクが1.5 倍も高くなるという衝撃的な結果が出ました。布団やベッドにいる時間を短くして、外に出て身体を動かす時間を多くする、これが健康長寿の秘訣だというのです。長さより深さ!量より質!眠りの世界に限らず、今の日本の政治、経済、社会、文化、生き方・・・全般に発せられた啓示のように感じるのは、眠りが浅いせいでしょうか、それとも深読みしすぎでしょうか。
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