食欲の秋。日に日に寒さがつのり、山からはマツタケ、海からはカニと美味が加わり、これからは野生の味も食卓に並びます。近年人気が広がっているジビエ料理です。11 月15 日に狩猟解禁となり、シカ、イノシシ、カモ、キジといった野生鳥獣の肉料理がおいしい季節となります。そもそもは、フランス料理として貴族たちに好まれた高級料理。日本では1990 年代に食材が輸入され始め、ジビエとして一部の食通たちに好まれていました。シカ肉のテリーヌ、イノシシの骨付き生ハム、ヤマバトのパイ包み焼き、マガモのポワレなど今ではおいしそうな料理の数々がジビエ料理を紹介するホームページに載っています。国産の鳥獣肉の生産がここ10 年ほど右肩上がりとなり、以前よりも多くの人たちがヘルシーで野性味あふれるジビエを楽しむようになっています。
我が国には古くから東北などにマタギという山にこもる狩猟者がいましたが、今ではごくごく少数に。明治時代以降、全国の中山間地では地元のハンターがシカやイノシシなどを捕獲してきました。しかし、狩猟免許を持つ人数が昭和から平成へと時代が移るにつれてどんどん減り、75 年に全国で51 万人もいたのが2018 年には20 万人そこそこ、実に6 割以上も減少しました。その半世紀の間、山林や農村では何が起きたのか。生態系のバランスを崩すシカやイノシシの生息数の激増です。スギやヒノキやブナの樹皮を食べ尽くす食害が広がり、さらに人里に進出して農地を荒らしまくる被害も全国的な問題となりました。そこで農林水産省が13 年有害鳥獣駆除を呼びかけ、25 年までに頭数の半減を政策としました。駆除した鳥獣を有効利用しようと、ジビエ料理が表舞台に出てきたという流れです。専門店だけでなく、大手のカレーチェーン店で天然鹿カレーを提供したり、ハンバーガー店で鹿肉バーガーを出したり、北海道ではエゾシカの缶詰が土産品として売り出されるなど、あれこれ消費拡大策が進行中です。
しかし、シカ、イノシシの捕獲、解体処理、食肉販売のどれひとつを取っても簡単ではありません。大半は地元の猟師と食肉店が小規模にやるというのが長年の実態でしたが、国策を受けて最近、異業種からの参入が増えてきました。中でもオフィスや個人住宅の防犯を専門とする大手企業「ALSOK」( 総合警備保障株式会社)の参入は意外性もあり、多くの関心を集めています。千葉県の山村の猟師たちと提携し、茂原市に自ら建設した食肉加工施設ジビエ茂原に捕獲した鳥獣を集めて処理し、注文が入ると飲食店に発送する、という一貫したジビエ産業を昨年から本格的に運営しています。兵庫・徳島県など先進的なところを含めて、全国的に捕獲、処理、利用の拠点が増えつつあり、農水省が支援するモデル地区も北海道から九州まで16 あります。ただ、このまま順調にいくかというと、壁がいくつかあります。捕獲して短時間に解体処理しないと臭みが抜けない、利用できる食肉部位が少なく今も利用率は9% にとどまっている、といった事情がネックになって大半の事業がまだ赤字だそうです。国連の提唱するSDGsの第15 陸の豊かさを守ろうにかない、生物多様性の保存にもつながる活動。ヘルシーで栄養豊富なジビエ料理を楽しみながら、地球環境に寄与し、人口減少と高齢化に悩む農山村地域の振興にもつながる、そんな一石三鳥、三方一両得のアイデア、さあ牡丹鍋でも食べながら考えましょうか。
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