ああ、私も大人になったなあと心に深く感じ入るときが誰にもあったと思います。で
もそれは、人それぞれ、異なる体験、異なる年齢、異なる場所でのことでしょう。地
球上に住む民族の多くには年齢ごとの通過儀礼があり、子どもから大人への転換、
アップグレードを祝う儀式が古代から行われてきました。日本では江戸時代には武士
の元服があり、男子は数えの15歳で大人の仲間入り、という習慣がありました。時は
移り、明治維新後の1876年(明治9年)の太政官布告で20歳で成人と定められ、その
後制定された明治民法でそれが受け継がれ、大正、昭和、戦後の新憲法下でも長らく
維持され、20歳で成人がしっかりと根付いています。その定義が令和の今、146年ぶ
りに変わりました。
民法の改正が4月1日から施行されたことによって、民法上の成年が20歳から18歳に引
き下げられました。世界の潮流や子どもの成長の早さなどを勘案しての決定です。今
まで親権の下で親の同意がないとできなかったことが、自分の自由意志でできるよう
になりました。例えば、スマートフォンの契約ができる、アパート・マンションの契
約ができる、英会話スクール・自動車学校などのローンを組むことができる、クレ
ジットカードの契約ができる、公認会計士・司法書士などの国家資格が取得できる、
10年有効のパスポートが取得できる、民事裁判を自分で起こせる、といった権利を18
歳から手にできます。ただ、今まで通り20歳からとされたのは、飲酒と喫煙と競馬な
ど公営ギャンブル投票券購入、それに国民年金加入でした。わあ、いろんなことがで
きるんだと喜ぶ若者のかたわらで、お金の問題が心配という大人たちがいるのも現実
です。というのも、ここ数年、10代から20代前半の若者から800円のサプリを買った
つもりが年5万円の契約になっていた、ブランド品を友だちに売れば月何十万円もの
収入があると勧められて70万円投資したが戻ってこなかったなど、詐欺やマルチ商法
などへの苦情を訴える何千件もの相談が国民生活センターに入っているからです。学
校ではこうした金融知識は教えてくれなかったという本人たちの嘆きの声もあふれて
います。
もう一つ、改正民法に合わせて4月1日から施行された改正少年法も世の中にインパク
トを与えています。今までは20歳未満の若者が犯罪を起こしても教育を旨とする少年
法の趣旨により、大半は刑務所での懲役でなく少年院での更生が主でした。ところが
これからは18歳と19歳を特定少年と位置づけ、原則20歳以上と同じく刑事裁判を受け
るケースが広がるそうです。それに従来18歳の無職少年Aと匿名報道だったものが、
起訴された段階で実名報道が可能になることに変わりました。自分の責任を自覚する
には必要という賛成論に対してSNSで犯人糾弾が激しくなる、立ち直りの機会が失
われるといった反対論もあります。そうそう、もう一つ改正民法で大きな変更点があ
りました。女性の結婚年齢が16歳から男性と同じ18歳に引き上げられたのです。今ま
では親の同意があれば認められ、2020年統計によると16歳で154人、17歳で483人が花
嫁さんになっていたとか。結婚とくれば離婚。別れた際の子どもの養育費の支払い時
期が民法では子が成年に達するまでとあり、4月1日以降は18歳までとなります。2016
年から実施されている18歳からの選挙権に続き、今回の変革で日本社会が少なからず
揺さぶられ、その結果、より理性と知恵と人情の積み重なった大人社会へと成熟して
いけばいいのですが。
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