いよいよ本格的な夏の季節を迎え、7月1日には各地で山開きが行われました。山といえば、今年5月の国会で8月11日を国民の祝日「山の日」として制定することが決まりました。16個目の祝日は、2016年から施行されます。山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝するというのが趣旨だそうです。国土の7割が山間部という日本列島の特性からすれば、ご趣旨ごもっとも。以前から日本山岳会、自然保護団体から要望されていて、それに応えた超党派の国会議員連盟が提案して実現したもの。でも、「わ~い、また休みが増えるぞ!」と子どものように喜べるかというと、素直に喜べない人が多いのではないでしょうか。なぜ今、山の日なのか、どうして8月11日になったのか、今一つ明快な動機づけがないからです。「海の日」(7月第3月曜日)があるのなら「山の日」もあっていい、といった雰囲気の中で進められ、しかも日本人の多くが取る旧盆の休みの少し前、8月12日に制定すれば1週間程度の長い休暇になるとの思惑があったからだとか。ただ、その日は1985年に起きた日航ジャンボ機墜落事故の慰霊の日と重なるため、1日早めたというのが実情です。
海や山という自然に親しみ、自然と共に生きる日本人の生活感覚、美意識を見つめ直すという趣旨そのものは結構なことです。日本一の山、富士山が昨年6月に世界文化遺産に登録されたのも、正式には信仰の対象と芸術の源泉だからでした。富士山だけでなく、あちこちの山々が「山の神」として長くあがめられ、霊や命が宿る神聖な場所として大切にされてきた歴史があります。でも今は、日本の山は様々な問題を抱えており、まさに山積状態。厳しい修行やスポーツとしての登山、トレッキングという色彩が薄くなり、楽しむレクリエーション化が強まり、光より影の部分、弊害が目立ってきています。富士山の「弾丸登山」は多くのけが人や病人を出す危険な行為なのに、なくなりません。ミシュラン旅行ガイドで三ツ星の東京・八王子市の高尾山(標高599メートル)は、外国人の人気も相まって、「高尾銀座」と呼ばれるほどの混雑が日常化しています。しかも、ペット連れで来てし尿垂れ流しのまま、グループで宴会をして飲めや歌えの大騒ぎ、登山者の間を超高速で駆け抜けるトレイルランニングの一群……などモラルが乱れかけています。
とはいえ、働き過ぎの日本人に休みが増えるのはいいことではないかという声が聞こえてくるのも事実です。自分の手柄とでも言いたげな議員もいそうですが、高温多湿の日本の真夏にフランス並みの1カ月のバカンスを取れという法律を制定するならまだしも、お盆前の1日を休日に加える程度では何とも……という思いの人が少なくないでしょう。常態化している残業労働、過労死になりかねない超過勤務、それを強いるブラック企業を何とかしてくれ、日々の生活の中でしっかりと休暇が取れる世の中にしてほしい、それこそが政治家の仕事でしょうというサラリーマンの恨みがお盆とともにわき出てきそうな……。要は、ワーク&ライフバランス。祝日の多さより、日々の仕事と休みの心地よいバランスが必要とされているのが現在です。観光地は祝・休日に人が集中して、結局みんな疲れて帰る、という長き習慣を変える時が来ています。3連休を増やせば解決するのか疑問です。観光立国ニッポンを目指すためにも、少子化傾向をストップするためも、「山の日」制定を機に、国民の働き方と休み方を、根本的に見直してみたらどうか。そうしないと、「山の神」が怒りだしそう。
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