「小銭入れの中に1円玉が急に多くなった」と実感する人が、今春増えたことでしょう。5%だった消費税が4月から8%に上がり、ちょっとした買い物でもおつりに1円玉が混じるようになりました。わずらわしいですか。でも考えようによっては、いいことかもしれません。道に落ちていても誰も拾わないような地味な存在に、久しぶりに光が当たったのですから。お金の価値について原点から考えるきっかけになります。4月には多くの企業がベースアップで給料が上昇した半面、年金の給付額が減額されるなど、アップ&ダウン、とかくお金にまつわる話題で盛り上がりました。そのお金の原点、はじめの一歩が1円です。そんな中、5月12日には新五千円札が発行されます。五千円札は、千円札や一万円札ほど人気はなく、どこで使われているのかと不審がられる二千円札にも発行量が追い越されたとか。その地味さでは1円玉と似ている気がしてきます。
10年ぶりの新札発行といっても、デザインが一新されるわけではありません。日本銀行券として2004年、史上初めて表(おもて)面に女性の肖像が採用された作家、樋口一葉の凛とした表情は変わりません。変わるのは、お札の表の左下にあるホログラムを覆っている透明シールの部分。今までの楕円形から今度は長方形になり、面積も1・7倍に拡大されます。今までその部分は一万札と同様だったため、新札になると手触りで違いが分かるようになる。独立行政法人・国立印刷局では、視覚障害者の方にも違いを認識しやすくしましたと説明しています。また、お札の記号や番号の色も、黒から褐色に変えて見やすくしたという。こうしてみると、なんだ、マイナーチェンジかと思う人がいるかもしれませんが、日本のお札には現代のハイテクがぎっしり詰まっていることを忘れてはなりません。国家経済を崩壊させかねない偽札のまん延。それを防ぐために、世界各国は紙幣の偽造防止にあらゆる努力を払っています。カラーコピー機や画像処理ソフトなど光学機器が急速に発達してきた現代、偽造防止と偽札作りとはいたちごっこ状態。だからこそ、最新技術による更新が日々必須になる。その点でトップクラスの技術を持つ日本は、新興国の紙幣印刷も視野に入れており、偽札防止にも世界貢献しています。透かし技術、磁気インク・紫外線発光インク・パールインク、見える角度によって光るホログラム、潜像文字などなど。さらに日本企業・オムロンが開発したユーリオンは、目に見えぬ小さな丸を印刷することによってカラーコピーによる複写を自動的にストップさせる機能があり、各国の紙幣印刷で採用されているすぐれものです。
1980年代から90年代にかけて世界的に流通した偽米100ドル札「スーパーK」は、アジアの某独裁国家による国家的な偽造工作という説が流れました。多くの小説や映画になってきた偽札作りは、どこかロマンチックな人間技を感じさせますが、現代の紙幣偽造は組織的な巨悪が介在している場合が多い。日本でもこれまで千円札、一万円札の偽札は数多く現われましたが、五千円札は2005年、カラーコピー機で作った偽札をファストフード店で使った男女が逮捕された1件だけです。お金に窮した人生を送った樋口一葉の「お金は大切に使うように」というメッセージ、あるいは呪い?が紙幣に込められているせいか。そういえば、経済誌「プレジデント」になぜお金持ちは財布に五千円札を持つのかという興味深い記事が載っていました。著者の税理士によると、10日に1回、生活費として37000円をATMから引き出す際、千円札7枚、五千円札4枚、一万円札1枚とする。日常の払いは千円札から順次使っていき、最後の砦の一万円札はなるべく使わないようにする。そのため中間の五千円札は殿を守る家臣の役割を果たしている。つまりむだ使いを防ぎお金を貯めるには効果的な紙幣だというのです。新五千円札を手にしたら、ぜひしみじみと表と裏をながめて、最先端技術の粋(すい)を確認してみてください。そして、樋口一葉の声にもそっと耳を澄ましてみては!
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