長屋の花見

4月の声を聞くと、新年度、新入生、新社会人・・・と何やら新しい生活が始まるという、期待に満ちた明るい気分になります。桜の花が咲くころ合いと重なり、これから色とりどりの草花が咲き乱れる百花繚乱、新緑の季節が続くのも、気分を浮き立たせる要因になっています。ただ、今年は単に浮かれてばかりもいられない。4月1日から消費税が5%から8%に引き上げられました。テレビでは駆け込み消費で、スーパーや百貨店、家電量販店などでの“まとめ買い”ぶりが紹介されていましたが、目先のやりくりとは異なる、じっくりと生き方の選択を考える時期ではないかという声に最近出合いました。作家の五木寛之さんです。「下山の思想」という本を出し、頂上目指して登る成長一本やりで来た日本人の生き方を、ゆっくりと山を下りながら成熟の晩年の楽しさを味わう生き方に変えてみようという提案です。

「僕も今年の夏で82歳になります。両親や姉弟が若死にだったので、僕がこんなに長く生きるとは思わなかった。今の日本人の多くは否が応でも90歳までは生きる。そこで、60歳から90歳までの30年間をどう生きるかを考えざるを得ない。日本社会を、学生・若者の世代、働き盛りの勤労壮年世代、そして60~90歳の3つに分ける。そして第3の人生期の世代は、今までとは別の人生が始まると考えた方がいい。読む本、聞く音楽、ライフスタイル、価値観を、それまでとは変えなければいけない。もうグルメなんか若い世代に任せておけばいい。例えば、各地の水道水の飲み比べをして楽しむなど、お金のかからない楽しみを見いだしていけばいい。アンチエイジングなどせずに、ナチュラルに任せていく。超高齢社会の先頭を走る日本が、どのような社会を作っていくのか、世界が固唾をのんで見守っていますよ。中国、インド、アメリカなどもやがてすぐ超高齢社会を迎えますからね」では、どうするのか。日本の歴史上、いや人類史上、こんな超高齢社会の先例、前例がないし、的確な処方せんも見当たりません。

日本では今年中に団塊の世代(1947年~49年生まれ)が全員65歳以上の老人になり、国民の半分が高齢者になる日も遠くない。消費税の8%への引き上げは、そもそも社会保障費(年金、医療費など)を充実させるためだったはず。ところが、その社会保障費そのものが超高齢社会に引きずられて年々膨張、今では年間110兆円になり、今後さらに増え続ける見込みです。8%引き上げで得られる増収分は5兆円ほど。2015年10月にはさらに消費税10%に引き上げられる予定ですが、それも焼け石に水になりそう。若い世代への負担が今以上に重くなることは目に見えています。そこで、五木さんはこう言います。「若い世代に頼らず、この第3の世代の問題はこの世代の中で解決していく。もちろん、高齢者の中でも、健康状態、資産状況、仕事の有無などいろいろ格差はある。そこで、相互扶助です。財産のある人は2分の1、3分の1を寄付する。メディアはそういう人をたたえる。若者や壮年との世代間対立は防げます」何となく、少欲少消費のイメージだ。教科書や前例のない老年時代の創造、チャレンジともいえます。一人一人にとって、生き方の文化大革命を迫られているということか。壮年期に狂乱のバブル景気を経験した世代にとって、つましい晩年を楽しく送るのも、これまた乙なもの、という心境に切り替えられればいいのですが。まずは、花見でもしながら、これからの生き方を考えてみましょうか。落語の「長屋の花見」のように、お金のかからない楽しみ方を実践しながら。

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