昔から親子の断絶や世代間の争いがあって、話がどうも通じないという人間関係は、どの社会にも大なり小なりあったことでしょう。では、21世紀の今は、どうか。年齢差もさることながら、IT機器を使いこなせるかどうかがカギの時代です。パソコン、さらにスマートフォンの出現で日本人が2分されてきました。例えば、日ごろのニュースを何で知るかというと、50歳代以上は新聞・テレビ・ラジオといったオールドメディアですが、20~30歳代ではネット検索でチェックする人が多数派です。インターネットが全世界に広まった1990年代から、若者の新聞離れが顕著になり、ネットで映像も見られるようになるとテレビ離れも加速しました。紙の新聞・雑誌の運命はあと数年、という観測も出ているくらいです。
パソコンが普及してきた20年ほど前に、コミュニケーションの取り方によって、3つの人類が共存していると説く人がいました。面人類・線人類・点人類です。面人類とは、面と面を向き合わせて話す人、いわばアナログ人間です。線人類とは、電話線を介して話す人。点人類とは、点(ドット)、つまりパソコン画面に文字を打って会話する人、デジタル人間です。現代社会ではこの3つの顔を持ち合わせている人が大半でしょう。ただ、個々人でその3つの割合が異なる。世代別にいえば、「面」に強い中高年、「点」が得意な若者たち、という特徴はあるでしょう。そこに最近5年ほどのスマホの急激な普及で、先進IT機器を使いこなしているネット派と、伝統的なマスメディアに頼る新聞・テレビ派と、二極化がはっきりしてきました。特にネット派は既成メディアへの不信感が強く、新聞やテレビを信用してはダメだ本当のことはその分野の専門家のブログでしかわからないと主張します。同じニュースの話をしていても、かみ合わないことが次第に多くなってきた、という感想を漏らす人もいます。ネット派は今や若者だけでなく、40代から50代にまで浸透してきています。2011年3月11日の東日本大震災、東京電力福島第一原発事故の報道に対する不信感が、マスメディアへの批判を高めたという事情もあります。
このあいだもマスコミ批判でネットが盛り上がりました。万能細胞「STAP細胞」を開発した理化学研究所の小保方晴子さんのニュースに関して、新聞・テレビは、30歳の美人研究者だの、祖母からもらった割烹着がかわいいだの、人柄やファッションの情報ばかりで、肝心な研究内容についてあまり触れていないのはおかしいという声があふれました。実は、ほとんどの新聞は研究内容、開発の経緯などを詳しく書いているのに、ネット派はどうも紙の新聞を読まずに、ネットに載った一部の情報だけで新聞は書いていないと怒りの文字を連ねたというのが真相らしい。とかく、ネット派は自分の関心事だけしかクリックしない傾向があり、また同調者だけで盛り上がり、批判する相手を血祭りにあげて、「炎上」させる快感を味わう。異論や反論をじっくり読むという態度が見られず、相反する情報を自らの意見にくみあげて、より練った内容に高める姿勢があまりないまま、過激な雑言を匿名で投げつける。2月のソチ冬季五輪でも、スピードスケートショートトラックとフィギュアスケートの激烈なメダル争いの結果、中国、韓国、ロシアの人たちが、ネット上で激しい非難合戦を繰り広げたのも、ネット時代を象徴する“戦争”の一つです。自分がネットで知った情報だけを正しいと信じて、他のメディアを一切「ウソ」と決めつけ見もしない人が、世界的に増えているような気がします。ネット時代の光と影のうち、影の部分です。ネットだけでなく、新聞、テレビ、ラジオ、雑誌など多くのメディアをバランスよくチェックするのが理想ですが、これは忙しい今の世の中ではなかなか難しいこと。どのメディアとどう付き合うか、が情報の質に大きな影響を与え、その人間の人格に強くかかわってくる。そんな時代の入り口に、私たちは立たされている。IT機器によって情報があふれる時代を迎えたものの、コミュニケーション、相互理解が容易でない社会という副産物を生みました。それを打開する未来を構想する知恵が必要です。面人類がもっと元気を取り戻さねばならないのかもしれません。
デジタルとアナログとのいいバランスが、今後さらに強く求められるでしょう。
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