ひと昔前なら「よッ、日本一!」という掛け声は、間違いなくほめ言葉でした。ところが今の世の中、それでは喜ばない人たちが増えてきた。特にアスリートたちにとっては、「日本一」という価値が大暴落している。「世界一」がそれにとって代わっているのです。今年新年早々世の中で話題となったのは、プロ野球「東北楽天ゴールデンイーグルス」の田中将大投手が、米野球メジャー球団「ニューヨーク・ヤンキース」に7年161億円の契約金で移籍が決まった、というニュースでした。「一試合投げると9200万円です」とわざわざ計算してくれるテレビ番組もあり、世間は高額に驚いていたようです。ところが、すぐ後の記者会見で田中投手がメジャー行きの理由を語った時のセリフが印象的でした。「今度は世界一を目指す」と。昨シーズン、パリーグで24勝0敗という驚異的な活躍を見せ、日本シリーズ勝利の原動力にもなった田中投手。「日本一」では満足しない、さらなる高みを自分の向上のモチベーションにしたい。こんな考えをする若者が目立つようになってきた、と感じないでしょうか。
例えば、サッカーの本田圭佑選手が昨年末、イタリア・セリエAの強豪チーム「ACミラン」に入団、エース番号の10でプレーすることになりました。日本→オランダ→ロシア→イタリアと、より厳しい道に進んでいます。本田に限らず、日本の有望選手の多くは現在、ヨーロッパ各国のチームでプレーしていますが、それも世界のトップクラスで勝ちたいという強い意志が大元にあります。テニスの錦織圭選手は今年こそランキングトップ10入りすると目標を掲げ、1月の全豪テニスではランキング1位のナダル(スペイン)と、もう一歩で勝利かという大接戦を繰り広げました。世界の頂点を目指すという目標が、肉体や技術だけでなく、ハートも強固にしているのでしょう。まさに「少年よ、大志を抱け」の21世紀版です。2月7日から開幕するソチ冬季五輪に出場する選手たちの言動にも、それがひしひしと伝わってきました。
「世界一じゃなきゃいけないのか」というセリフがひところはやりました。事業仕分けで無駄な予算を削ろうという狙いからでした。政策予算には取捨選択の余地があるでしょうが、スポーツ界では今や、世界を視野に入れないと進歩も向上もないという時代に入っています。すでにグローバル経済が地球を一つに結び付けようとしており、地球規模のネット社会の進展で海外情報もワンタッチで手に入る時代です。同じ土俵で戦う競技ならば、世界各地の選手がライバルになる。そういう思いで日ごろの練習に励むのが当たり前になりつつあります。大相撲の力士、とくに日本人力士のふがいなさは、こんなところに原因があるのかもしれません。さて、スポーツではありませんが、最近、世界級の研究成果を挙げた日本人が大きなニュースになりました。万能細胞を簡単な製法で生み出した30歳の女性研究者、小保方晴子さん。世界の科学者の間にセンセーションを巻き起こしました。再生医療の進展に大きな弾みをつける研究のようです。これも世界を視野に入れた、いや人類のためという大きな志のたまものでしょう。「最近の若者は・・・」というセリフは、もう引き出しの中にしまっておく方がよさそうですね。
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