新春の大相撲

「初場所の風の街ゆくふれ太鼓」と俳句にも詠まれる新春の大相撲。角力取(すもうとり)の雄姿が浮世絵に描かれるなど、相撲は江戸の昔から新春の風物詩です。とくに今年の両国国技館は、久しぶりの熱気に包まれています。12~26日の15日間の大相撲1月場所は、綱取り場所。大関・稀勢の里(27歳)が優勝すれば横綱に推挙される可能性があるからです。久々の日本人力士による横綱誕生を待ちわびる。そんな期待と興奮のマグマが館内に満ちています。

振り返れば、日本人横綱が土俵上で見られたのは2003年1月場所の貴乃花が最後でした。新横綱誕生となれば、2000年3月場所の若乃花以来、武蔵丸、朝青龍、白鵬、日馬富士と外国人力士が続きましたが、日本人横綱はもう14年間も出ていません。神事から始まった相撲は「国技」と呼ばれるだけあって、やはり日本人が10年以上も角界の頂点にいないのは異常事態でしょう。若貴人気で沸いた時代が過ぎると、大相撲人気も下降線をたどり、東京だけでなく大阪、名古屋、博多の地方場所でも「満員御礼」の垂れ幕が下りる日が少なくなり、客席に空きが目立つようになりました。テレビ中継もNHKは続けていますが、1959年からずっと深夜放送していたテレビ朝日系「大相撲ダイジェスト」も2003年に終了しました。さらに、八百長事件、親方による暴力事件、超高額の年寄株売買など、この世界の古くていびつな体質が次々と露呈し、日本相撲協会の屋台骨すら危なくなってきています。少子化による力士志願者の激減、さまざまな格闘技の出現による選択肢の拡大、根性や我慢という価値観を受け入れない若者意識の変化など、大相撲を支えてきた地盤そのものが液状化している。その現状を直視して根本的な対策をとらないと、持続可能な興行スポーツとしての未来はない、という危機感が高まっています。

そんなうっ憤、矛盾を一気に吹き飛ばしてくれとばかりに、日本人力士の先頭を走る稀勢の里の一身に相撲ファンの期待が集まります。昨年11月九州場所で両横綱を破り13勝2敗で「優勝に準ずる成績」とされ、この初場所で優勝すれば横綱昇進確実との下馬評が流れています。さらに横綱審議委員の中からは「優勝を争って負けても13勝なら横綱にしてもいい」という声まで出ています。しかし、横綱昇進の内規に「2場所連続優勝、もしくはそれに準ずる成績」とあります。稀勢の里はまだ一度も優勝経験はありません。しかも、平成になってからは「2場所連続優勝」の関門をクリアしていない横綱は一人もいません。いくら日本人横綱待望論が強くても、条件を緩和してまではいかがなものか、という批判もあります。力士が土俵に上がって柏手を打って両手を広げる動作は、武器は所持せず正々堂々と戦うよ、という相撲道の表現です。正々堂々と横綱になるには、やはり圧倒的な強さを見せて優勝するしかないでしょう。稀勢の里の出身地の茨城県牛久市には、ギネスブックに載る世界一の高さ120メートルの牛久大仏が立っています。地元ファンはきっと阿弥陀如来のご加護を願っていることでしょう。外国人力士を圧倒して“世界一”の高みについてほしいと。さて、千秋楽、総理大臣が「感動した!」と賜杯を日本人力士に手渡すシーンが見られるかどうか。相撲に限らず、私たちもこの一年、感動体験を一つでも多く味わいたいものです。2014年もよろしくお願い申し上げます。

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