伝統日本より 「今でしょ!」

2013年に日本を訪れた外国人観光客が年間1000万人を超えて、過去最高の人数になることがほぼ確定したようです。お・も・て・な・しの年に、うれしい結果です。でも、内容を子細に見てみると、外国人旅行者が望むおもてなし、サービスの質が従来のものとだいぶ変わってきています。明治維新以来、欧米人に喜ばれた「フジヤマ・芸者」のエキゾシズムは影をひそめて(今年は世界文化遺産登録で富士山は再びにぎわいましたが)、東京、京都という代表的な観光都市以外の、特色ある地方の町々に足が延び始めているようです。これが近年の特徴だそうです。政治の世界よりも一足早く、観光面で地方の時代がやって来ていると言っていいでしょう。

その典型的な成功例と新聞やテレビで紹介されているのが、北海道の北のはずれ、宗谷管内枝幸町歌登地区にある「うたのぼりグリーンパークホテル」の取り組みです。札幌からクルマで5時間以上かかる人口1万人ほどの町には、これといった観光資源はありません。その何もないを逆手にとって、では何かを作ろうと、2010年から山間のホテルがタイ人観光客を誘致したのが大当たり。何が人気を呼んだのか。バスで到着すると、すぐに客は浴衣に着替え夕食の宴会場。ステージでの和太鼓の演奏を楽しみながら、餅つき、そうめん流し、タコ焼き、寿司などを、すべて自分で体験しながら食べる。あこがれの寿司を自分で握って食べるタイ人男女は皆笑顔だ。夕食後、厳冬期は氷点下20度の外に出て、雪像づくりやかまくら遊びに興じ、夜空を彩る花火に歓声がわく。早朝には日の出を拝みに行く人もいる。普通の日本人が四季折々楽しんでいる祭り、遊び、食べ物を、1泊2日にギュッと詰めて、季節ごちゃまぜのてんこ盛りにした日本体験。地元住民の協力もあって大ヒット、リピーターが出るほどの人気ぶりとか。京都の雅(みやび)体験とはまったく違うが、これもまた日本のよさの一面であり、相手が喜んでくれるものを提供する、という意味ではすてきなおもてなしです。

外国人観光客は日本に何を求めて来るのか。もちろん多様なニーズがあると思われますが、最近は普通の日本人の生活を体験したいという志向が強まっているそうです。食べ物では、懐石料理などの高級な和食よりも、ラーメン、カレーライス、蕎麦・うどんといったB級グルメ人気に火がつき、宿泊も高級ホテルよりも、古くて安い日本旅館や、なんとカプセルホテルに泊まる外国人旅行者も増えているらしい。明治維新以来「脱亜入欧」のスローガンの下、欧米志向で突き進んできた近代日本の姿よりも、平安~江戸時代の伝統が息づく民俗文化の方が魅力的に映るのかもしれません。象徴的に言えば、脱京都。京都は京都で今も日本を代表する素晴らしい観光都市ですが、日本全体が京都のまねをする必要はさらさらないでしょう。それぞれの都市や町の魅力を、さらに磨き上げることの方が明日につながるのではないでしょうか。2015年春に北陸新幹線が長野から金沢まで延びて、東京・金沢間が2時間半に短縮されます。全国に50以上もあるという小京都の中でも人気トップクラスの金沢。東京からの観光客もどっとと皮算用をしているかと思いきや、金沢の人は京都はお公家さんの文化の町。金沢は前田家が築いた加賀百万石の武家の文化の町。一緒ではありませんと、全国の小京都が集まる「全国京都会議」から脱退して、独自の文化で売ろうとしています。質の競争、楽しませ方の競演がもっと盛んになれば、国内だけでなく海外からも豊富な観光メニューにワクワクしながら訪れる人たちであふれるのではないでしょうか。おもてなしの心は一つかもしれませんが、おもてなしの仕方は多種多彩であった方が、より楽しみが大きいです。

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