観光立国

「最近また、銀座周辺に外国人観光客が目立つようになりましたね」という声を何人かから聞きました。一時期、大型バスでどっと乗り付け、都心の街中で買い物に突進する中国人観光客の姿が目立ちましたが、2011年の大震災・原発事故に次いで、尖閣諸島問題で国家間の緊張が高まって以来、サッと大波が引いてしまいました。最大の訪日客数を誇る韓国からのお客さんも、竹島問題を含めた反日ムードに押されて、少し影をひそめていました。でも、日本を訪れる外国人は11年の落ち込みから、昨年は持ち直して過去2番目に多い836万人に達しました。さらに今年1~6月の上半期も495万人と、これまた過去最高の数字を記録、政府が目標とする年間1000万人も実現できそうな勢いです。

訪日客数3位の中国だけは、大きく減少しています。ではその穴を埋め、全体の数を増やしたのはどこの国だったのか。統計によりますと、台湾、香港、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ベトナムといった東アジア、東南アジア諸国からの観光客が大幅に増えています。先日、銀座の老舗真珠宝飾店に入ったら、東南アジアの国からと思われる家族が、娘さんのために高級品を買うところを目にしました。新宿の大型ホテルのマネージャーの話では、昨年から個人客が激増しているとか。やはり数字は本物だったのですね。これを受けて政府は今夏、タイとマレーシアにビザ免除、ベトナムとフィリピンに数次ビザ化、インドネシアに数次ビザの滞在期間延長といった査証緩和措置を決めて、東南アジアからの門戸をさらに大きく開きました。格安航空(LCC)の便数が増加し、円安傾向と景気回復も後押ししたようです。とくに東南アジア諸国は順調な経済発展によって、近年中間所得層が増大して、一部の富裕層だけでなく、多数の中間層も海外旅行を楽しめるようになった。一部には「安倍政権による中国、韓国包囲網戦略の一環か」と政治戦略との絡みを説く人もいますが、03年以来の訪日旅行促進事業「Visit Japan」を強化した政策であることは間違いありません。それによると、今年の年間1000万人に続き、30年には3000万人の外国人観光客を目標にしています。漫画、アニメ、ファッション、すし、ラーメン、日本酒、浮世絵、歌舞伎、盆栽などカッコいい日本文化「クールジャパン」を売り物にして、「訪日ブランド」を確立しようという、オールジャパンの取り組みがいよいよ本格化してきたようです。

それでも、年間4000~5000万人の外国人観光客を迎え、観光が一大産業になっているフランス、スペインなどの観光大国に比べると、世界ランキングでも20位台の日本はまだまだ観光小国です。日本より先に査証緩和措置を実施している韓国には、タイなど東南アジア諸国から日本を上回る観光客が押し寄せています。国家戦略として位置付けた韓国は、各国のテレビ局に韓流ドラマを無料か安価で放送させて、「韓国に行きたい」というあこがれを庶民に植え付けることに成功、それがサムソンやLGなどの家電・IT企業の業績アップにも結び付いたのです。鎖国を解いてからまだ160年ほどの日本。長らく「外国=海外」という隔絶感が強く、先の戦争でアジア各地に軍隊が進駐したという記憶も残る中で、遅ればせながら「文化国家としての日本の魅力」をPRしているところです。「いいものは宣伝しなくても分かってくれる」と自己PRが苦手な国民性もあって、積極的なプロモーションも少なかった。しかし、クルマ、家電など良質な工業製品というモノにとどまらず、目に見えない「おもてなし」が近年、世界的に高い評価を得ているのは追い風です。大震災のときに発揮された秩序だった助け合いの心も、きっと多くの国の人々に「優しい日本人」のイメージを与えたことでしょう。13年が「観光立国への本格的なスタートだった」と歴史に刻まれる年になるでしょうか。街中で外国人観光客を見かけたら「ようこそ日本へ!」のほほ笑みを投げかける。そのくらいなら、私たちにもできるかもしれません。

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