女性の活用

「今の日本には女性の活躍が必要だ」。安倍晋三首相が4月19日の会見で、成長戦略の中核に女性の社会進出、就業率アップを位置づけしました。何を今さら、という声も聞こえます。男女雇用機会均等法が1986年に施行されてから、男女共同参画社会を目指してさまざまな施策が実施されましたが、男性優位という現実は大きくは変わりませんでした。最近ようやく、経済界からも「失われた20年を終わらせて新たな成長を開くには女性の活用が不可欠だ」との認識が広まり、IMF(国際通貨基金)から高齢社会、労働人口減少の日本は女性の就業を拡大すべきだとの報告書を突き付けられ、国際的にも圧力が高まっています。このタイミングで、上げ潮に乗っているアベノミクスで、長年停滞してきた女性の地位向上に結び付く政策を次々と打ち出してきました。いい形で実現されることを望みます。

というのも、長い間、日本の経済や政治の分野では、女性の存在感は大きくなかったのが実情だからです。例えば、国の基本を決める議会。世界的に見ると、年々女性議員の数も比率も高まっています。昨年の調査では、世界192カ国の国会議員(下院)に占める女性議員は、平均で初めて20%を超えました。ちなみに昨年11月のアメリカ合衆国選挙では上院20%、下院18・6%でした。では日本は?昨年12月に行われた衆議院議員選挙の結果、女性議員比率は7・9%に下がりました。世界ランキングは163位、先進国最低です。男性優位社会の牙城はまだまだ崩れません。議員定数の一定の比率を女性に割り振るというクオーター制度を導入して、女性議員が増えた国も少なくありません。競争ではなく調和を、権威でなく平等を、管理ではなく自由を、人工ではなく自然をという志向を強く持つ女性目線の政策が打ち出されるには、そういう手法も一つの方法でしょう。

日本女性の労働参加率を現状の63%からG7(先進7か国)の平均を少し上回る70%に、とIMF報告書は目標数字を挙げています。自民党総務会長の野田聖子さんは企業の新入社員の4割を女性にする法律を作りたいとのろしを上げました。こうした数の増加を目指す政策そのものは結構ですが、では労働の質はどうなのか。女性労働の半数以上がパート、アルバイト、契約社員という非正規労働者で、賃金水準も男性の6~7割程度という現状です。男女間の待遇の違いを調べた「ジェンダーギャップ世界ランキング」では日本は何と101位!前回調査の98位からも後退しています。安倍首相は「待機児童ゼロ」「育児休暇を1年から3年に拡大」という政策を掲げ、女性が働きやすい環境を作ろうとしています。ただ、働く場所に多くの女性を引き入れて、これまでの男性労働者と同じように、長時間労働、サービス残業、有給休暇の取りにくい職場環境の中で働かす、これでいいのでしょうか。

女性の参入によって、男性をも巻き込んで、日本の労働環境そのものが変わる。こうしないと先進国として生き延びることが難しい時代です。いい例があります。1980年代、専業主婦が多数派という日本と似た状況だったオランダが、今働く女性であふれていますが、働き方が多様で、自分の生活に合わせた勤務が選択できるようになっています。育児から戻った専門職の女性は、パートタイマーで管理職に復帰して、1日5時間程度の集中勤務だとか。情報機器や先端機械に囲まれた現代社会ならではの勤務形態が、これ以外にもさまざま出てくるでしょう。働く喜びと自分の時間の楽しみとのすてきなバランス。女性の社会進出をきっかけにして、働く大人のゆとりライフを、さらに一層豊かなものにしていきたいですね。

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