メンタルトレーニング

来年2月開催のロシア・ソチ冬季五輪に、日本勢第1号の出場権を獲得したのは、女子アイスホッケーチームです。3月末にはチームの愛称が「スマイルジャパン」と決まりました。実は、このスマイルは実話に基づいたネーミングでした。精神面でゆとりを持ち、心の中で笑顔を絶やさないメンタルトレーニングによって、日ごろの実力が発揮されて栄冠をつかんだのです。1998年長野冬季五輪には開催国枠で初出場を果たしたものの、その後3回の五輪には、あと一歩で出場を逃してきた女子チームに、何かが足りなかった。昨年11月、日本代表チームの合宿に、一人の男性が初めて合流しました。メンタルコーチの山家正尚さんです。山家さんの目には、選手間の会話が少ない、失敗したら何を言われるかと互いに萎縮していると映りました。そこで選手2人ずつをバディ(相棒)に組んで、携帯メールなどで日々濃密なコミュニケーションを取らせると、チーム内に会話と笑顔が増えてきた。選手たちにこんな内容のカードも持たせました。「試合の勝ち負けはコントロールできない。勝ちたければ信じる力を使えばいい。コントロールできる事は『いま、ここ、自分』だけ。勝ちたければ必要な意識を使えばいい」。今年2月の五輪最終予選で、強豪ノルウェーに3点リードされながら4-3で逆転勝利できたのは、緊張場面でも「自分のできるプレーに集中すればいい」と平常心を保てたからでした。「メントレのおかげ」と選手たちが、それこそ笑顔で喜んでいました。

また、05年にプロ野球の千葉ロッテオリオンズを率いて日本一、アジア一の座に輝いたバレンタイン監督のメントレも素晴らしい。選手たちに朝晩、「今あなたの持っている技術で十分だ」と言い続けたというのです。プラスの感情を持てば、選手一人一人のセルフイメージも大きくなり、楽しく元気に、プレーも伸び伸びとして、チーム力が上がり、成功に近づく。メンタルトレーニングを成功に導くコーチング(コーチ力)と言われるものが、今スポーツ界だけでなくビジネス界にも幅広く活用されている現実に、多くの方はお気づきでしょう。

4月は企業、役所などに多くの新社会人がデビューする季節です。ポケットいっぱいの夢と、同じくらいの不安を胸に抱えながらの船出でしょう。ひと昔前は、職場の先輩が1年くらいは一緒にいて、半人前扱いながらも親切にあれやこれや教えてくれたものですが、今は入社早々一人前扱いされて、失敗したらすぐダメ印を押されかねない厳しい時代です。セルフイメージが小さくなり、硬い壁のような現実を前に立ちすくんでしまう若者も少なくありません。ただ、現実は変えられないものかというと、そういうものでもないようです。リアルとバーチャル。現(うつつ)と夢幻(あやかし)。その摩訶不思議な関係を多くの小説に書いている人気作家、京極夏彦さんはフレッシュマンにこんなエールを送ります。「この仕事は自分に合わない、向いていないという人がいるが、それは自分がやりたくないから。それを素直に認めて、自分には才能があるなどといったこだわりを捨てれば、楽になりますよ。仕事に面白いもつまらないもない。要は、どうしたらその仕事を面白くできるか。それができれば結構楽しいですよ」と。妖怪でなくても、自分次第で現実は変えられる。そんな人生のススメを説いてくれました。

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