読書の力

灯火親しむの候、読書の秋を迎えました。ただ今年はいくつかの異変があるようです。まず「蛍の光、窓の雪」という言葉を耳にしなくなりました。灯火、つまりロウソクのない貧しい環境でも必死に文字を読もうとする勤勉ぶりを指した昔の表現が、もう消滅です。電子端末の本格的普及で、いつでもどこでも本が読める時代となったからです。米大手アマゾン社の「キンドル」が今秋日本でも発売され、本格的な電子書籍時代の到来、黒船来襲とも騒がれています。これに伴い、再販制度で値引きしないのが長い間の商習慣だった日本の書籍業界に試練の時が迫っています。紙の本より電子版の方が2~3割安く買える時代が来るのかどうか。出版のビジネスモデルが大きく変化するのか。経済と文化の大変換の胎動が起こっています。

「読書の力によって、平和な文化国家を創ろう」と戦後すぐの昭和22年(1947年)から始まった読書週間も今年で66年目。今年は10月27日~11月9日です。毎日新聞社と全国学校図書館協議会が合同実施した「第58回学校図書調査」の結果を見て、少々びっくりしました。今年5月の1カ月に何冊の本(雑誌や漫画類を除く)を読んだかという問いに対して、小学生は平均10.5冊、中学生は4.2冊、高校生は1.6冊という答。1冊も読まなかった割合が、小5%、中16%、高53%という寂しい数字です。「朝の授業前の集団読書運動」が全国に広まっている小学校では、徐々に本を読む生徒が増える傾向ですが、中高生のこの低い数字はゲームやケータイに夢中なせいでしょうか。雑誌を読む率も下がっており、雑誌冬の時代を裏書きしています。

では、子どもたちはどんな本を読んでいるのか。原ゆたか、山田悠介、松谷みよ子、那須正幹といった作家をご存じでしょうか。「かいけつゾロリ」「リアル鬼ごっこ」「妖怪レストラン」「それいけズッコケ三人組」といった作品で、少年少女の圧倒的な人気を得ている作家たちです。大人たちはあまり知らないでしょう。また、男子中高生が「キャラ萌え」していたライトノベルも、今や一時的なブームから完全定着した状態です。竹宮ゆゆこ、西尾維新、佐藤友哉、谷川流といった人気作家の文体は「なんとぉ……超美人さんなんですー!うわー!ひょー!かわいー!こりゃびっくりだんべなー!」(桑島由一「神様家族」)といった調子で、若者同士の日常会話をベースに、おふざけ言葉や方言などに加え、擬音や擬態語も含めて、マンガや劇画の影響を受けた表現にあふれています。そうしたライトノベルが今や30~40代にまで支持層を広げているとか。中高年世代が若い時に読んだ小説というと、夏目漱石や太宰治、宮沢賢治などの名前が挙がりますが、今やエンターテインメント系が圧倒しているようです。紙から電子へ、硬い本から軽い読み物へ。さてさて日本の読書文化は、どう変わっていくのでしょう。その未来像はどうも読みにくい、ですね。

0コメント

  • 1000 / 1000