うっとうしい梅雨からいよいよ暑い夏に、の季節。今年も原発にからむ節電態勢で臨む夏になりそうですが、そんなときこそ、水が恋しくなるもの。海水浴に行くもよしですが、都会で涼をという方には、今年5月22日に開業した東京スカイツリーのすぐ下にあるすみだ水族館をお勧めします。
予想外の人気スポットになった理由は、環境哲学とハイテクの両方がうまく結合したからでしょう。入ってすぐの水槽にまず目を奪われます。横幅7メートルの水槽の「自然水景」です。ごつごつした岩や石、アマゾンの流木、それにまといつくコケや水草が透明な水の中で生き生きと見え、見ていると水中の自然の中にいるような気分に誘われます。主役はサカナというより、水草を主とした生態系そのものといっていいでしょう。光を浴びて緑の植物が二酸化炭素を吸って酸素を出す光合成を発揮、その酸素をサカナが吸収して二酸化炭素を出して…というサイクルが回る。その様子が目の前で展開されているのが手に取るようにわかり、うれしくなります。この「ネイチャー・アクアリウム」の世界的な第一人者が天野尚さんで、すみだ水族館の目玉展示を製作しました。なかなか自分の目では見られない水底の生態系を可視化させたワザは、理屈ではなく体感できる環境哲学の教科書として世界50カ国で称賛されています。
もう一つの特徴は、LED照明を使用し、効率的に海水が流入、ろ過するシステムを開発し、異臭防止のためアロマの風を流すなど、快適空間をつくるために新しい技術が活用されている点です。ざっと400種類1万匹のサカナたちは、とりたてて珍しい種類がいるわけではありません。でも、例えばクラゲの水槽では、水流をうまく操作して、いかにもクラゲが踊っているかのように見せる工夫が楽しい。また昨年、世界自然遺産に登録された小笠原諸島の海を再現した「東京大水槽」は、照明の工夫で、そう広くもないスペースを奥行き深く見せる効果を発揮しています。634メートルの高さからの眺めを楽しむのもいいですが、命の源の海の底をのぞいて、人間を含めた生き物が今どんな環境で生きているのかについて考えるきっかけを水族館は与えてくれます。もちろん、しばしの涼感も。
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