「和食」を世界文化遺産に申請しよう、と日本政府が決めました。意外に思う方がいるかもしれませんが、今や日本食は日本国内だけでなく、世界の多くの地域のさまざまな民族の間で食されています。日本人の寿司職人は、ヨーロッパやアジアで引っ張りだこです。「日本食を世界国家戦略として展開するのなら、少なくとも世界各国にちらばる日本人外交官は全員、寿司くらい握れる、和食の伝道師であるべきだ」という威勢のいい意見まで飛び出しています。申請理由は、寿司、天ぷら、すき焼きといった単品でなく、鮮度のいい素材をそのまま使う点、さらに四季折々の室礼(しつらい)に基づいた季節感あふれる料理を供する点が強調されています。単に食べるだけでなく、日本人の美意識を味わってもらおうというのが深いねらいのようです。
「クールジャパン」という言葉もだいぶグローバルに広がりました。当初は、漫画、アニメ、テレビゲームを指していましたが、原宿、渋谷の若者のストリートファッションが次第に国境を越えて支持されてくると、その自由奔放な(大人たちから見れば奇抜な)カジュアル着を身にまとったギャルたちが前面に出てきました。「カワイイ文化」です。有名デザイナーが作る服をありがたがって着るのではなく、どんなファッションも自分流にアレンジして、シューズ、バッグ、アクセサリーをからめて、他人とどんなに違うかを際立たせる。そんな女の子の感性が、欧米だけでなく中国はじめアジアの多くの地域の女性たちの心をつかみ始めています。外務省から2009年、「カワイイ大使」に任命され、パリやバンコクに行って「ロリータファッション」を広めた看護師でカリスマモデルでもある青木美沙子さんは、今や世界の人気者です。
クールジャパンが国際化してきた!と手放しで喜んでばかりもいられない事実もあります。例えば、日本発のロリータファッションは、今やロシアとブラジルの女の子の間で大ブームだそうですが、ロシアで実際にそれを売ってもうけているのは、なんと韓国企業だと、文化ファッション大学院大学の山村貴敬教授が説明しています。独創的な「作品」を生み出す優れたデザイナーがいるだけではダメで、それを「商品」にして多くの人に買ってもらうマネージャーの存在がファッション産業には不可欠だというのです。同大学の鈴木邦成准教授によると、アパレルから店舗まで一貫した商品の流れ(ロジスティック)がないと、産業として成長していかないのです。1970年代から80年代にかけては、高田賢三、三宅一生、川久保玲、山本耀司、コシノヒロコ・ジュンコ、森英恵らが次々と現れ、日本人デザイナーの感性と存在感を世界にアピールしました。ところが、その後は世界規模で活躍する日本人デザイナーはなかなか現れなくなっています。クリエーションとマネージメントの両輪を今よりもっとうまくかみ合わせて、ファッション産業大国として早く浮上してもらいたいものです。
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