1年を振り返る季節になりました。2001年を「9.11」で記憶する人が多いように、2011年が「3.11」の強烈な衝撃で刻印された人が少なくないと思います。巨大地震と直後の大津波、さらに福島第一原子力発電所事故。平穏だった生活が一気に失われ、想像もしなかった苦しみ、悲しみにくれる日々。とくに今も続く原発事故の影響は、快適な文明社会を享受していた私たちの基礎そのものが、非常に不安定なものだったという現実に気づかされました。
経済的な繁栄を求める生き方。日本人の大半は戦後、それを通してきました。世界有数の経済大国となった1970年代から80年代、誇りとともにおごりも兆していました。90年以降のバブル経済崩壊後、いくら豊かな国といわれても実感が乏しい人が増えてきました。「今の生活に満足しているか」「幸せを感じるか」という問いに対して、日本人は国際的にいつも低い回答を寄せていました。「給料が2倍になれば幸せも2倍になる」わけではない実感を多くの人が持ち始め、GDP(国内総生産)という物差しが、幸せの指標とは感じられなくなってきたのです。
GNH(国民総幸福)という物差しを国づくりの柱にしている国から11月、国王夫妻が来日しました。10月に結婚したばかりのブータンのワンチュク国王(31)とジェツン・ペマ王妃(21)です。親日的で、大震災の翌日に早速供養祭を催し、100万ドルもの義援金を送ってきてくれました。6日間の来日中、国会演説で日本人の不屈の闘志を称揚し、被災地の福島県相馬市まで行き子どもたちを直接励ますなど、心身共に日本のことを心配してくれている様子がメディアを通して全国に伝わりました。人口約70万人の小さな仏教国は、国民の9割以上が「幸せ」と答える国柄です。その秘密の一つがGNHなのかもしれません。それを象徴する逸話があります。近代化をもたらす電気を山村に引こうとしたら、村民の多くが「ツルの飛来のじゃまになるから」と反対し、結局地中埋設に替えたというのです。エネルギーより自然環境重視の証しか、と日本人なら思うでしょう。それもありますが、実はブータンはチベット仏教の輪廻転生を信じている人が多く、ツルも先祖の生まれ変わりと思うからこそ、大事にしているのです。他国の表面だけ見て、都合のいい部分だけを自国に取り入れるわけにはいきません。日々の生活の奥には、文化、宗教、風俗などが深く根ざしています。いいものは参考にしつつ、借り物でなく、日本人の生活から生み出した、世界の模範になる幸せの物差しを創造していく、それこそが世界にお返しできる日本人の使命ではないでしょうか。
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