ここ数年、パワースポット巡りが流行しています。とくに、若い女性を中心に、良縁に恵まれますようにと現世ご利益を求めての神社巡りが多いようです。何か超自然の力が働く場所という意味のパワースポットは全国各地にありますが、とりわけ古来、濃密なパワースポットの集中場所として知られるのが、桜の名所として有名な奈良県の吉野から空海が真言宗の拠点を開いた和歌山県の高野山、そして三重県を含めた3県にまたがる熊野古道ルート一帯です。
「古事記」によると、アマテラスの孫で高天原から地上に降りた神の4代目の末裔、カムヤマトイハレビコという名の神が、生まれ育った九州のヒムカ(日向)を出発して、苦難の末に熊野に上陸した後、ヤマト(大和)に到着して、そこで初代神武天皇として天下を支配することになったという「神武東征」神話の里です。ちなみに、熊野の山中を案内したのが、足が3本ある八咫烏(やたがらす)で、男女ともサッカー日本代表のシンボルマークになっています。進撃の導き手、勝利への案内人といったパワーを期待してのことでしょうが、7月に世界を沸かせた女子サッカーワールドカップで見事、日本チームが初優勝を飾ったのも、もしかしたら熊野のパワーが届いたからかもしれません。
その一帯は、「紀伊山地の霊場と参詣道」として2004年、ユネスコの世界文化遺産に登録されています。自然のあちこちに神の存在を感じる古来の八百万(やおよろず)信仰に加え、6世紀に日本に伝わった仏教や道教などが交わって、日本独特の山岳修行「修験道」を生みました。その実践場として奈良、平安時代から多くの修験者が、深い峰々を命がけで巡り歩き、霊山・異界と一体化することで超自然的な力を獲得しようとしました。熊野古道は単に有名な神社や寺や道があるから意味があるのではなく、その濃密な自然のなかで修行するという実践があってこそ、意味を持つ地域なのです。厳しく過酷な自然の中に身を置き、生と死の境界を肌で知る体験が、人間という小さな命は、自然とともにあるもの、自然の中でこそ生かされているという感覚を血肉化させます。21世紀の今も日本人の中に流れている血です。自然は人間が征服、制御すべきシステムであるという西洋の自然観とは明らかに異なります。3月11日の東日本大震災を体験して、多くの日本人が「今までの生き方はどこかおかしかったのではないか」と漠然と感じたのは何なのか。人間の傲慢さを自覚して、神代の昔から受け継いできた「自然・人間観」を取り戻す時期なのでしょう。そんな漠然とした思いを抱きながら、今年の夏、熊野古道を歩いたらいかがでしょうか。汗まみれで山道を歩くあなたの心にきっと何かがささやきかけてくるはずです。それが新たな姿に生まれ変わるパワーになるかどうか。
ブルース・リーの言葉で締めくくります。「DON‘T THINK,FEEL!」
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