人間、誰しも失敗はしたくないもの。でも、人生の中でほぼ必ずと言ってもいいほど、好ましくない結果に直面するものです。こんなとき、その失敗そのものを隠そうとする人、たいしたことはないと過小評価する人、見方によると言い逃れに終始する人など、重大事態に真正面から向き合おうとしない人たちの例が、古今東西の歴史にあふれています。ただ、このたびの3・11の巨大地震・大津波による「東京電力福島第一原子力発電所」のメルトダウン事故は、そうであってはなりません。日本国民にだけでなく、世界全体に正しい原因究明と情報公開をきちんとする、人類としての責務があると考えるからです。
その点で、政府の事故調査・検証委員会の委員長に就任した人物に注目します。畑村洋太郎・東京大学名誉教授(70)です。「失敗学」の第一人者で「原因究明を優先し責任追及はしない」というユニークな立場を公言しています。列車事故、航空機事故、工場事故など、多くの犠牲者が出る重大事故が発生すると、日本の場合、とかく責任者は誰だ。謝れという声が沸き起こります。ところが、これでは当事者の正直な告白が得にくくなり、真の原因解明が難しくなり、よって将来起こり得る事故や失敗を未然に防ぐ知恵の果実が得られないというのです。誰かを罰して溜飲を下げるより、なぜ失敗したかについての率直で具体的な証言の方が、よほど社会にとって得るものが多いという判断です。
ただ、失敗した人は隠したがる、世間は非難したがるという風潮の強い日本で、うまくいくでしょうか。そんな風潮を変えようとしている経営者が出てきました。「失敗が起きたら、その失敗をどんどん報告してもらい、そのためにも、その人を褒めなければいけません」というのは、「星野リゾート」の星野佳路社長(50)です。軽井沢の老舗温泉旅館の4代目を継いだ若者は、今やリゾート運営の達人を自任、全国各地の旅館再生事業を数多く成功させている観光カリスマの一人です。究極のサービス業の客商売では、失敗は不可避と言っていいでしょう。ただその失敗経験を包み隠さず公開してもらい、今後の課題としてスタッフ全員が共有する仕組みを作れば、失敗の数がだんだん減っていく、という考えです。失敗の共有こそ成功の糧という経営術は、日本文化を変えていく力になるか。今回の原発事故調査・検証の結果によっては、「失敗学」が言葉だけでなく、豊かな果実として社会に根付く大きな第一歩となり、災い転じて福となすになるのですが、さて。
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