フェイスブック

「まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき 前にさしたる花櫛の 花ある君と思いけり・・・」初々しさの漂う島崎藤村の名詩「初恋」の世界とは正反対に、世の中には失恋すると相手を恨み復讐を企てる人もいるものです。大学生のマークもそんな一人。女友達のエリカに振られた腹いせに、ブログにエリカの悪口を書き込み、学生寮の名簿をハッキングして、女子学生の身分証明書写真を載せた美女ランキングのサイトを立ち上げる。ところがそれが人気沸騰し、あっという間に他の大学から一般社会にまで広がり、今や百数十カ国で5億人以上が登録する世界最大の会員制ネット交流サイト「フェイスブック」になった。マークとは創業者のマーク・ザッカーバーグ氏のことで、創業実話を描いた映画「ソーシャル・ネットワーク」が日本でも1月に公開されています。

一度も会ったことのない人とでも会話し情報交換して友達付き合いができるネット上のサービスを、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)といいます。私たちは生まれてからこのかた、隣近所の人たち、学校に行けば先生や友達、就職すれば仕事仲間など、現実社会で多くの知り合いに囲まれて生きてきました。それをネット空間で実現しようというもの。後発ながら世界最大のSNSとなったフェイスブックは、誰でも登録できますが、原則実名が特徴です。プロフィールを公開して自己紹介、顔写真まで付けられます。出身地、勤務先、家族構成、既婚か独身かなど多くの項目がありますが、どこまで書くかは個人の自由。しかも項目ごとに公開範囲を友達のみからすべてのユーザーまで小刻みにプライバシー設定できる。よく利用している人に聞くと、「ジャズが好きと言うと、同じ趣味の人からいろいろな情報を教えてもらえてありがたい」「古い知り合いから、お久しぶりと便りがあった」など、日々の交友範囲が今までよりぐっと広がったという声が返ってきます。

ところが個人情報を実名公開すると何かと不利益が生じるのではとネットの影の部分を心配する人が少なくありません。とくに日本のSNSで大手のmixi(ミクシィ)、GREE(グリー)、モバゲータウンは匿名OKが大半で、それぞれ1000万を超える登録がある。2004年にアメリカで始まり08年から日本でも本格利用が始まったフェイスブックは約200万のユーザー登録にとどまっているので、匿名社会の日本で実名登録を強いると普及しないのではないかという新聞記事も出た。ただ、血縁・地縁・社縁という個人を包むさまざまな縁を次々と切ったり薄めてきた戦後の日本社会は、とうとう無縁社会という氷河期に自らを追い込んでしまいました。個人情報やプライバシーの保護という法の壁を高くして、結局、誰も自分に積極的にかかわらなくなり、自分も内向的になっていないか。そんな反省の機運が生まれ始めているからか、ネット上でも仲のよい友人・知人ができるSNSは、21世紀の交際広場になると光の部分を積極的に評価する人が日本でも増えています。知られたくない自分とは一体何なのか、誰とどうつながりたいのか……進化した情報通信技術は、人類が長い間続けてきたフェイストゥフェイスの人間関係を大きく変え、人付き合いの仕方や友達という概念まで変える可能性がありそうです。

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