数年前に育児専門誌の編集部員から聞いた話です。お悩み相談電話に若いママからかかってきた内容は、うちの赤ちゃんのオシッコの色が青色でなくて心配です。どこか異常があるんでしょうかというもの。よく聞くと、
紙おむつのテレビCMで赤ちゃんのオシッコがブルーに着色されていたのを見て、それが正常であって自分の子の茶色は病気の兆候では?と心配になったとのこと。まあ、なんてもの知らずなの、とベテランママたちはあきれたでしょうが、この出来事の背景を思うと笑ってばかりもいられません。現代社会の核家族化が年々進んで、妊娠・出産・育児という命を育む現場で若い母親が孤立している現実があります。子育ての必須情報が自分の
母親や祖母や周囲の経験者から得られずに、本や雑誌、テレビやネットというマスメディアから必死で集める姿が浮かびます。では、どうしたらいいのか。子育てにメディアや機械任せはダメという声がある一方で、進んだIT技術を積極的に活用すべきだという動きが5年前、アメリカから起こりました。ベビーテックという潮流が
それで、今年は日本でのベビーテック元年と呼ばれています。
生まれてから1歳前後までの乳飲み子を持つ若いママの一番の悩みは、赤ちゃんの夜泣きです。オギャーオギャーと泣き叫ぶ我が子を前に、なんで泣くの、何をして欲しいの、とおろおろするママは、連日連夜のオギャー
攻撃にやがて産後うつに陥り、理解せず手助けしようとしない夫との関係まで悪化する産後クライシスを迎える。ここでベビーテックの登場です。赤ちゃんのオギャーは親にどんなメッセージを伝えようとしているのか、
それを科学的に分析できないか。日本の企業「ファーストアセント」が150カ国の赤ちゃん約20万人の泣き声を人工知能(AI)で学習させて、おなかがすいたよ、眠たいよ、不快だぞ、怒っているよ、遊んで欲しいのという5つの感情に集約して可視化、例えばおなかがすいた65%、遊んで欲しい35%のように推定して表示する
機器を開発しました。今年開催された世界最大の国際IT見本市CESでイノベーション・アワードを受賞したのが同社のainenne(アイネンネ)で、今夏一般発売されました。赤ちゃんの枕元に置いて、寝かしつけた時刻、眠りについた時刻、起きた時刻などを登録ボタンに記憶しておけば、何時何分に起きたらいいのか、AIがその赤ちゃんのベスト起床時刻を提案してくれるという機能もついています。
こうした育児ビッグデータを活用したベビーテックの開発に多くの企業が参入して、新機能が増えています。
でもよく考えたら、これは赤ちゃんに限らず大人の体でも応用できる話ですね。実際、個人の生体リズムを記憶・分析して一日の生活に最適なパターンを提案でき、それをスマホアプリで確認できる時代が来つつあります。
膨大なデータからアルゴリズムによりさまざまな有用情報を導き出すのはAIの得意技で、活用範囲が広がっています。胃や大腸などの内視鏡映像診断も、医師による目視よりAI診断の方が異常発見の確率が高いという報告もあります。さらに診断が難しい精神疾患の世界にも、AI診断の可能性が高まっています。高精細の脳画像を
利用して、数万通りの脳回路マーカーからうつ患者を高い確率で見分けられる、という研究が日本で進行中とのこと。個人のプライバシーがのぞかれる不安、国家による情報統制という危惧が強いAI活用の今後ですが、個人情報を本人の役に立つように活用するのが肝要です。そここそは人間が真剣に考えて決めるべき分野でしょう。いや、それもAIに任せてしまうほうが正解か。21世紀は人類とAIとの知恵比べが続きそうです。
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