酔っ払い天国

3密、不要不急、パンデミック、まん防、人流、副反応、テレワーク、オンライン授業、ブレークスルー感染・・・新型コロナ感染が猛威を振るったこの2年間、こうした新語・流行語が毎日のように飛び交っています。その中の一つに家飲みがあります。感染の元凶のように白い目を向けられた街の居酒屋が営業時間短縮や酒類の提供禁止といった憂き目を見て、飲み客はやむを得ずまっすぐ家に帰って自宅で静かにお酒を飲むといった生活が家飲みの一語に凝縮しました。ただ、飲み過ぎて体重が増加した、健康にマイナスな数字が出たと、思わぬ副反応に見舞われた人もいるようです。酒は飲みたいが健康はキープしたいという需要に応えて、コロナ禍の社会でノンアルコール飲料の人気が高まっています。人気だけでなく、実際に消費量が20年には2313万ケースと過去最高を記録、21年もすでに前年の111%増と右肩上がりが止まらない勢いです。

ノンアルといっても今は大半がノンアルコールビール。その出発点は03年の道路交通法改正にあります。酒酔い運転への罰則が強化され、ではアルコール分の少ないビールならいいだろうと酒類メーカーが一斉に参入。ところがノンアルと謳いながら、実際はアルコール分が0.1~0.5%ほど含まれる低アルだったため、飲酒運転に判定される怖れがあり、消費が伸びずに終わりました。罰則がさらに強化された07年の道交法改正後、アルコール分0・00%のビール、キリンフリーが日本初のノンアルビールとして発売されると、これが大ヒット。各メーカーがどっと参入して、味や風味も年々向上して、オールフリー、ドライゼロ、カラダFREEなど品種も豊富になり、15年から6年連続で生産・出荷額が伸びてこの10年で需要が2倍増。その勢いに乗って、ビールだけでなく、酎ハイ、カクテル、ワイン、ウイスキー、ウオッカ、日本酒、梅酒にまでノンアルが登場。果実やスパイスをアレンジして酔った気になる魅力ある多様なノンアル飲料が、レストランや和食店で楽しめるようになってきました。

日本の事情とは別に、15年頃から英国ロンドンを発信源として、ノンアル飲料がヨーロッパ各地に飛び火という事情がありました。レストランで美味しい食事とアルコールを同時に楽しむのが食文化として定着しているヨーロッパ社会。近年、お酒を受け付けない人たちにもゆっくりテーブルで食事と飲料と会話を楽しんでもらいたいという思いが広がり、ノンアル飲料が次々と開発され普及しました。背景には、酒を受け付けない人たちを排除するのでなく、食卓を共にしながら互いを理解し合おうという多様性尊重の新思潮があります。また、動物由来の食べ物を拒否するビーガンを実践する人も欧米で増え続け、東京オリンピックの選手村でもビーガン用の食事が用意されていました。

動物の肉の消費をやめて、栄養や地球環境を考慮して、大豆やエンドウ豆を使った代替肉、肉もどき食品の開発が進み、結構おいしいと消費を伸ばしています。人生、何を大切に生きるのか、価値観や人間関係の変化が食べ物飲み物の分野に新たな現象をもたらしている。ノンアル人気もその一環でしょう。非常事態宣言が解除され夜の居酒屋営業も再開された日本社会。でもコロナ前の日常が復元されるのかどうかは疑問です。酔った者が大きな顔をする会社の忘年会・新年会にスルーする若者や女性たちが激増している現象を無視できません。酔っ払い天国はもう過去のものになり、ノンアル人気は大きな社会構造変革の予兆のような気がします。

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