テレビドラマは社会の鏡であり、鑑でもあると言われます。今生きる人々の要求・欲望の入り交じった世相を早く鋭敏に映すと同時に、こうあってほしいという理想の姿を示す面もあるという意味です。今年の特徴は、医者が主人公で病院を舞台にした作品に支持が集まった点でしょう。ただ、どんな難病でも治してしまうスーパードクターの活躍物語という一昔前の人気ドラマとは一味違ってきているようです。
現在放送中で視聴率トップの「JIN~仁~」(TBS系)は、脳外科医の主人公(大沢たかお)が突然、幕末の江戸の町にタイムスリップしてしまい、現在に比べて医療技術の低い環境の中で、目の前の患者を救うには自分に何ができるか苦悩しつつも最善を尽くそうとする姿を描いた作品です。医療技術の限界はどの時代にもあり、常に最善を追い求めつつも命を救えないこともある宿命の中で、人間は生きていかざるを得ないという深いため息が出るようなドラマです。ドクターの真剣な姿に共感するとともに、一般の人々の「こんなお医者さんがいてくれたら」との願いが人気を支えているものと思われます。
もう一つの話題作は「ギネ 産婦人科の女たち」(日本テレビ系)です。近年社会問題化している産婦人科医の不足、偏在、過重勤務、訴訟という現実を背景としながら、日々格闘している現場をリアルに描くドラマです。本物の出産シーンの映像を巧みに挟み思わず引き込まれますが、ここでも個人の医者の努力の限界が明らかにされ、医療体制の不備が浮き彫りにされる展開です。さらに「日本の医療はこれでいいのか」を真正面から問うたのは、夏季の「救命病棟24時」(フジテレビ系)、昨年の「コード・ブルー」(フジテレビ系)で、共に視聴率トップを得て関心の高さを裏書きしました。救命救急体制の充実、ドクターヘリの普及は助かる命を少しでも多く救うためには不可欠です。
こうしたドラマの人気の高さは、必死で助けを呼ぶ一般国民の叫び、と受け止めてほしいものです。
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