坂の上の雲


「今年こそ○○をやる」「今年中に○○を実現する」と、日本には新しい年の初めに一年の計を立てる伝統があります。勤勉で計画好きな日本人らしいですね。それが国家目標となると、明治維新以来「富国強兵」を旗印にし、敗戦後は「経済復興」「経済大国」にかじを切り、今日までやってきました。いずれも欧米列強、先進諸国に追い付き追い越せという発想でした。

急な上り坂でもその先に目標が見えていたら力が出る、つまり「坂の上の雲」に向かって一致団結したのが明治の日本人の姿だったというのが作家、司馬遼太郎の見方です。700年に及ぶ武士の天下をひっくり返して新たな体制を構築しようとした明治政府の要人たちは、実にうまく西洋の憲法、議会、経済、文化を模倣しました。しかし、その成功体験に酔ったまま、日清、日露両戦争に勝利したあと、ではこれからどういう国家目標を立てたらいいのか、明確な針路、独自の国家モデルを自分の頭で考え出さないまま富国強兵に突き進んだ歴史でした。「雲」がないと迷走してしまうのか。

NHKがテレビドラマ「坂の上の雲」を2009年秋から2011年に渡って放送する大型企画を実現させたのは、21世紀初旬の現在こそ、国家目標喪失の危機にあるという時代認識があったからに違いありません。経済大国にかげりが出て、少子・高齢社会が現実のものとなった今、医療、福祉、教育、環境、食料など解決すべき課題が山積し、しかも従来の教科書通りにやっていては立ち行かないことばかり。さらに地球環境問題など人類全体の危機解決には明確な処方せんは見当たらないのが現状です。前例の踏襲や知識の応用ではなく、新たな知恵の創出が求められています。

私たち一人一人のレベルでも「今までの生活や生き方の見直しをするぞ」そんな一年の計を立てる2010年初頭にしてはいかがでしょうか。そういえば、正月から始まったNHK大河ドラマは「龍馬伝」。まるでちゃぶ台をひっくり返すように既成社会を変革しようとした坂本龍馬の陽気な破壊力を参考にせよと言わんばかりですね。

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