悩 め る 人

生誕100年という節目もあって、太宰治ブームがまた起きています。桜桃忌の6月19日には墓のある三鷹市の禅林寺に大勢の若い世代が押し寄せました。「人間失格」「走れメロス」「斜陽」など今も若者の心をとらえる小説の魅力もさることながら、玉川上水で愛人と心中したという最期の姿に、何やら甘美なものを感じるファンが多いのも事実です。

ただ、心中はあくまで自殺です。そして日本は世界の中で自殺大国という不名誉なレッテルを張られていることに目を背けてはなりません。山一證券が破たんした金融危機の98年に初めて年間3万人を超える自殺者が出たのを皮切りに、08年まで11年連続で3万人台が続く異常事態です。ざっと1日に90人、18分に1人が自ら命を絶っているという恐ろしい計算です。内閣府の調査では自分の身の回りに自殺した人がいると答えた人が3人に1人もおり、自殺は極めて身近な不幸なのです。

「死んだ人の勝手」「自己責任だ」と冷たく突き放つことができるでしょうか。世界保健機関(WHO)が自殺はその多くが防ぐことのできる社会的な問題であると規定しているように、自殺者を出すのは社会の病理だとの基本認識が必要です。政府もやっと06年に自殺対策基本法を制定し、自殺は防ぐことができると全国の自治体レベルでもきめの細かい活動が始まりました。ここでもエコ活動と同じことが言えます。つまり、小さくてもいい、何か自分にできることをしようと。自殺を考えている人は必ずサインを出しているそうです。それを察知してその人をまず優しく受け止めてその人の話に耳を傾ける。金銭のセーフティーネットも大切ですが、ごく日常の会話が意外な安心効果をもたらすものと期待しています。

9月10日が世界自殺予防デーです。

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