今年は作家、松本清張誕生100年を記念して多彩なイベントが予定されています。
1992年に82歳で生涯を閉じるまで42年間の作家生活中に書いた原稿用紙は12万枚を超え、作品は約1000編、全集にして66巻というのも驚きですが、純文学から歴史小説、推理小説、戦後史や古代史の研究まで幅広い分野に旺盛な興味と執筆を続けたのも「昭和の巨人」と呼ばれるゆえんでしょう。
他の文学の巨匠と異なるのは、その作品が数多く映像化されている点です。映画は35本と作家として最多、テレビドラマは300本を超え、他を圧倒しています。没後も毎年各局が1本ずつ製作する人気ぶりです。1月も「疑惑」がリメークされ視聴率18.5%(関東地区)と高い関心を呼びました。
50年も前の清張作品が21世紀の今もなぜ、映像作品として強い支持を得るのか。一言でいえば、社会派推理ドラマでは、金銭、愛欲などにどろどろした欲望を持つ男女が描かれ、自分の欲望を実現しようとするとき社会の制約とぶつかり事件が起きる、その動機に社会性がしっかり刻まれているからです。しかも登場人物は特別な人ではなく、どこにでもいそうな平凡な人が多く、誰でもが経験しそうな日常の恐怖が描かれているので、見る者には人ごととは思えないリアリズムが感じられます。さらに人と人が直接向かい合う人間関係が濃厚で、喜怒哀楽の表現も濃密です。人と人の間にさまざまな電子機器が介在するデジタル時代では味わえない奥深いコミニュケーション世界といえます。清張人気は、人と人のふれ合いをもっと深く求めたい社会の深層心理でしょうか。それは時代を超えた人間存在そのものでもありますが。
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