「冬のソナタ」の春川(チュンチョン)市や「オールイン」の済州(チェジュ)島など人気韓流ドラマの撮影地に、日本人女性たちがペ・ヨンジュンやイ・ビョンホンの面影を求めて大挙殺到したのはつい数年前。愛は国境を超える、いやファンは国境をいともたやすく超えるものなのですね。今、その逆流が起きています。韓国ドラマ「IRIS~アイリス~」(4月からTBSで放送中)でイ・ビョンホンと美人女優のキム・テヒの恋愛風景の撮影が行われた秋田県に、韓国からの観光客が押し寄せています。また中国で大ヒットしたラブコメディー映画「非誠勿擾」(誠意のない人お断りの意)が撮影された北海道・阿寒湖温泉には、中国人観光客が前年の10倍を超す勢いでやって来ています。
テレビドラマや映画で紹介された土地の美しい自然、観光施設、食べ物などが、それを見た人たちに強力な旅行願望をかき立てる。以前から国内でもNHK大河ドラマの舞台や人気映画「男はつらいよ」の撮影地に選ばれると、多数の観光客が来ることは知られていました。ただ、都市や町が組織的に戦略的に誘致しようという動きは、ここ十数年前から。地元の自治体や商工会議所などが中心になってフィルム・コミッションという非営利公的機関を作り、映像作品に適した地形、建物、施設などを積極的に売り込み撮影の便宜を図る。現在、北海道から沖縄まで全国に100を超えるフィルム・コミッションがあり、映像作品の影響力で直接間接、町の情報発信と経済効果という果実を得ています。外国の映像作品による大量の外国人来訪という今回の成功体験は、おそらく初めてでしょう。
観光立国が今やわが国の成長戦略の柱になっており、08年に観光庁が創設され、09年には観光立国推進本部もできた日本ですが、年間4000万~5000万人もの外国人観光客を受け入れているフランス、イタリアといった観光大国に比べると、過去最高を記録した08年835万人、不況・新型インフルエンザなどで落ち込んだ09年678万人という数字のわが国はまだ観光中進国。今年は1000万人、2020年には2000万人という目標がありますが、日本の誇るべき自然と文化というソフトパワーをもっと世界にアピールすれば、韓国や中国からの観光客がどっと来日した今回の現象が一時的なものでないことが証明されるでしょう。文化の魅力に多くの外国人が引き付けられてやってくる国の姿こそ、21世紀の「坂の上の雲」と言っていいでしょう。
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