新海誠監督のアニメ映画「君の名は。」が大ヒットし昨年公開された600本を超える日本映画の中で興行成績が断トツの1位、歴代でも2位という輝かしい記録を樹立しました。さらにお隣の韓国、中国でも熱い支持を得てこれまでに上映された日本映画の中で最高の入場者数になったそうです。とかく反日色のニュースが目立つ両国でも日本映画を観た若者層を中心に感動の輪が広がったという現実は、政治や経済といった面とは違う文化・芸術という次元・空間では理解ができる、平たくいえば国家や民族を超えて人と人とが心と心を通わせることができるという明るい可能性を見せてくれました。「自分の国が一番」と言い募るトランプ米大統領の登場で国際交流とは逆の排外主義の風が世界的に強まりつつある時だけに、ちょっとホッとするニュースです。
クールジャパンの代表格となったアニメや漫画と同じように、日本人自身がその良さや魅力をあまり深く認識しないまま海外で人気に火が付き、逆に外国人から教えられてその価値を見直すという日本文化が増えています。訪日外国人観光客が年間2400万人を超え史上最多となった昨年には「日本ってこんなにすごい国なんだ」というところを見せるテレビのバラエティー番組がたくさん放送され、多くの視聴者の自尊心と愛国心?をくすぐりました。便利な家電製品にしろおもてなしの心にしろ、職人的なきめ細かい心配りを得意とする日本人の良さが世界の多くの国の人たちに次第に認められているようです。そうした傾向を反映してか、季節の伝統行事が最近少しずつ復活しています。太陰暦に基づき一年を24等分した二十四節気が注目され始めたのも四季折々の自然と人間との調和に安らぎと癒しを感じる人が増えている証拠かもしれません。
淡々と流れる日常生活のスパイスとなるのが年中行事です。正月の初詣、二月の節分、三月の節句…と季節の移ろいとともに日本人は昔から家庭内でも小さな“祭り”を楽しむ知恵とゆとりを持っていました。中でも晴れやかで優美な雰囲気なのは、やはり雛祭りでしょう。女の子の健やかな成長を祈る思いが雛人形に凝縮され雛飾りをしつらえ鑑賞する習慣からは、1000年以上も前の平安貴族の息遣いまで感じ取れそうで穏やかな気持ちになります。東京・目黒雅叙園で展示中(3月12日まで)の1000点を超す雛人形を見ると、その感を強くします。百段階段につながる七つの和室に、今年は九州各地の特色ある雛飾りがぎっしりと並んでいます。朝のドラマ「花子とアン」で有名になった『赤毛のアン』の翻訳者・村岡花子のお雛様と、腹心の友だった歌人・柳原白蓮が愛した有職雛とが初めて同室で並び、別の部屋では白蓮が嫁いだ筑豊の炭鉱王・伊藤伝右衛門邸に飾られていた 800体の座敷雛が見る者の胸に迫ります。爆買いブームが去り、訪日の目的が日本文化を味わう体験型に変わりつつあるというのが外国人観光客の傾向とか。単に見て「ビューティフル!」と感嘆の声を上げるもよし。さらに一歩進んで、雛人形に込められた親の思いを理解して雛壇から漂う平安な空気に浸り、そこから平和の大切さが発信されていると深く読み取る外国人が一人でも多く出てきたら、日本にとってこんなにうれしいことはないでしょう。
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