住宅思想

あと少しで平成という時代の幕が下ろされます。平成の始まり、1989年はバブル経済真っ盛りでした。「マンション転がし」という言葉も出るほど、たった一年の間にマンション価格が2倍から3倍に上昇した例も珍しくありませんでした。だからマンションを買っては、買値より高値で売り渡すという利殖法、財テクが可能でした。でも、平成も終幕に近づいた今ではそんな芸当は難しいようで、むしろ少子化社会で住宅が余ってきているのです。現在、全国644万戸、総人口の15%を超えるマンション住人がいる中、必要とされている建て替えすら極めて困難な状況のようです。日本経済の衰退でさまざまな社会福祉費も先細りになる―そんな暗い未来予想図が浮かんできます。

実際に建て替えに成功して新しく生まれ変わったマンションがあるじゃないかという人もいるでしょう。しかし、国土交通省の調査「マンションの建て替え実施状況」によると、今年4月現在で「建て替え工事完了済み」はわずか237件。そのうちマンション立替法による建て替えが実現したケースはわずか79件とのこと。容積率に余裕があって建て替え新築の際に以前より多い部屋が作れて、それを売り出せれば元の住民の負担もゼロ、ないしは軽く済みます。だが、そうでない場合、「住民の5分の4以上の賛成が必要」という決まりがネックになって一歩も前に進めません。現在、築30年超のマンションは全国に100万戸以上ですが、これらがあと10年もすれば「建て替えるか、しないか」という選択に直面します。建て替えを阻止する遠因は高齢化社会です。住人の多くが高齢者であるマンションが増え、建て替え費用が一戸当たり1000万円以上と試算されると、「年金暮らしでお金がない」と建て替え反対に回るケースが各地で見られます。「命があと何年もないんだから、このままでいい」、「建て替え期間中に別の場所で住むのが不安だ」など、さまざまな理由が出てきます。高齢者だけが住む「限界マンション」が蔓延するという予測も、まったくの空想とは言えません。

もう一つの悪条件は、総人口が2008年の1億2808万人をピークに急速に減少しつつあるにもかかわらず、住宅そのものは増加し続けて、空き家がどんどん増えてきていることです。15年後の2033年には、全国の空き家率が3割を超えると試算されています。そうなると住宅価格は下がります。マンション価格が下落すると、建て替え費用や修繕費を工面できないという恐れも。ローンまで組んで買ったマンション生活がこんな末路を迎えるとはと溜息をつく人たちが日本列島のあちこちに出てきそうです。ひと昔前までは、「持ち家と賃貸ではどちらが得か」という問いに、サラリーマンたちが自分の年収を考えながら選択をした時代がありました。それでも、マンションを買うという一大決意をすると、何やら勝ち組になったような優越感に浸ったものでした。ところが平成の30年の間に、景気の低迷と先行きの不安、少子高齢社会の到来と社会の土台がガラリと変わってしまいました。所有より使用という価値観の大転換もあり、マイホームを買うというエネルギーが縮小しつつあるようです。戦後ずっと、政府が推進してきた持ち家奨励策。マンションは戦後日本の象徴であり、昭和と平成を通して増殖した巨大なマンモスです。でも今や、介護世帯の激増と社会福祉予算の漸減という流れの中で、新しい住宅政策が打ち出されねばならない時が来ている、いやその前に私たち一人ひとりが「どういう住まいに誰と住みたいか」という住宅思想を持つべき時に来ているのです。平成の終わりに、ぼんやりと願います。単に年号が変わるだけでなく、新たな住まいの思想が生み出されたらいいのになと。

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