テレビの存在感

最近のテレビは“おばさん化”している、という話が放送界で流れているそうです。「女性が活躍できる社会」という国策に合わせて、テレビ局に女性社員や女性役員が激増したのでしょうか。テレビマンに聞くと、そうではありませんでした。現在テレビをよく見ている層が中高年の女性ではないかという調査結果がさまざま出てきて、それに対応した番組が以前に比べると増えているということを指しての言葉でした。新聞のテレビ欄を見ると、確かに「名医が診断する病気の前兆」といった健康番組、「いつまでも元気で美しく」のノウハウを教える美容番組、「一度は訪ねたい世界遺産」を新たなアングルで見せる紀行番組などが目につきます。視聴率調査会社ビデオリサーチによると、どんな人がテレビを見ているかを計るため、男性=M(マン)、女性=F(フィーメル)と性別分けしたうえ、大人を大雑把に年齢分けして20~34歳を「1」、35~49歳を「2」、50歳以上を「3」とし、例えば50歳以上の女性ならば「F3」と分類して、それぞれの数字を出しているそうです。ここ十数年、若者のテレビ離れが業界で話題になり、それに代わっておばさん・おじさん視聴者が存在感を増してきた、ということかもしれません。

2016年10月から、視聴率調査がより細かく正確にできるようになりました。視聴率調査が始まった1961年以来、長らく視聴率といえば、その家庭がどの番組を見たかという世帯視聴率でした。ところがデジタル機器の発達で、2年前から関東地区900世帯の2300人を対象にして、その家庭の誰が何を見たかがわかる個人視聴率が捕捉できるようになりました。さらに、リアルタイムでは見なかったものの、録画しておいて7日以内に見たというタイムシフト視聴も記録できるようになりました。録画需要が最も強いドラマには2~10%程度の視聴率があり、リアルタイム視聴と合算して総合視聴率というカテゴリーが誕生して、テレビ局としてはスポンサー企業からの広告料金を増やせるチャンスと意気込んでいます。タイムシフト視聴の若者が多いことも浮き彫りになり、「若者のテレビ離れも心配ない」と安堵する向きもあります。もう一つ、「F3=50歳以上の女性」とひとくくりにされていた中高年女性たちの年齢ごとの細かい視聴実態が明らかになったことです。50代をはじめとして、60代、70代、80代と健康長寿時代を証明するように、元気でアクティブな中高年女性はさまざまなテレビ番組を楽しんでおり、自分に投資する女性たちの旺盛な購買意欲に向けてテレビ広告の需要が増え、新たなビジネスチャンスが広がりつつあります。

ここ数年、テレビCMの売上という本業での儲けがなかなか上向かずに、数年後には広告費総額がネットCMに追い抜かれるのではないかと暗い見通しだったテレビ業界も、今年4月から反撃に出ました。東京にある民放5社が共同して新たな視聴率計算指標をもとに、CM収入の増額戦略に乗り出しました。その名も「P+C7」(ピープラスシーセブン)という営業作戦。「P」は番組=プログラムの意味で今までのリアルタイム視聴率。それに新たに加えて(プラスして)、「C」はCMのこと、「7」は7日以内に見るタイムシフト視聴率、つまり今までカウントされていなかった録画視聴分もCM実績として算定すると、スポンサー企業に今よりも高い金額でCM契約が取れるという皮算用です。オワコン=もう終わったコンテンツと揶揄され自嘲気味のテレビ界。今回のビジネス改革で盛り返すかどうか。それにしても、おばさん目線のテレビ番組が増えているのは、2024年にも日本の人口の半分が50歳以上になるという長寿日本の現実を映す鏡だからなのでしょうか。

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