夏休み明けの9月は、子どもにとっては「魔の季節」だそうです。久しぶりに学校に行ける喜びを弾けさせる子がいる一方で、学校が恐怖の場となって自宅から一歩も動けずにそのまま不登校になってしまう子や、自殺という最悪の選択をする子もいます。長期間のひきこもりを続ける10代の若者の姿がドキュメンタリー番組でも時折取り上げられます。こうしたことからひきこもりというとついつい社会に適合できない若者の問題というイメージが先行していますが、最近、中高年のひきこもりに新たな光が当てられています。その存在がもう無視できないほどの膨らみとなっているからです。
内閣府による2010年の調査で70万人いたひきこもりが、2015年の調査では54万人に減りました。なんだ改善してるんだ、と安心はできません。統計・数字のマジックがあります。この調査の対象は15 ~39歳に限られていたのです。ところが、対象外だった40歳以上の層にこそ、巨大なひきこもり群がひっそりと生存していたのです。全国の地方自治体の相談窓口やNPOの支援組織によると、40代から50代に至る中高年のひきこもりが近年増加しており、実際には100万人はいると推定する研究者やジャーナリストもいます。中高年ひきこもりの多くは、バブル景気が崩壊した後の1990年代に社会人となった世代です。就職氷河期で就活に苦労し、やっと入社した後も金融危機をはじめ、日本経済の失われた20年の真っ只中で生きてきた「ロスト・ジェネレーション」です。明日はどうなるのかという不安と仕事で即結果を求められる厳しい職場環境の中で、20~30代を企業倒産、リストラ解雇による転職などの憂き目に遭いながら生きてきた世代です。激しい競争社会のストレスから身を隠すように生きる道を選んだ男女に“ひきこもり”というレッテルが貼られ、今や40~50代になだれ込んでいるのが実態です。収入はほぼゼロという50代の子どもを、同居する80代の親が年金や預貯金で支えている。そんな現実も、高齢の親が病気、要介護状態になるといっぺんに危機的状況に陥る。それが最近クローズアップされてきた「8050問題」という問題なのです。
政府は今年11月に初めて、40~64歳5000人を対象にしたひきこもり実態調査を行う予定です。ひきこもり対策は、これまでは何とか仕事に就けるよう相談、支援するのがメインでした。ところが、ひきこもりの人たちは「本当は働きたいけど、他人とうまくコミュニケーションが取れる自信がなくて、働くのがこわい」と本心を洩らす人が多いようです。そこで、支援策のメインを改めて、まず「自宅近くで気安く立ち寄れる居場所や同じ境遇の人たちと集まれる場所(ネット空間を含む)」作りを強化します。多様性のある社会や働き方改革が声高に政策PRされていますが、現実はまだまだ。社会が個人に求める「あなたはこうでなくてはいけない」という役割意識の殻が重たくのしかかり、その重圧に耐えかねてひきこもり生活に入る人たちが後を絶ちません。2014年公開のディズニーアニメ映画『アナと雪の女王』の主題歌「LET IT GO」日本語版が大ヒットして、全国の映画館内では観客たちが一斉に歌う光景がニュースになりました。そのサビの部分が「♪ありのままで…」。子どもも親も一緒に声をあげて歌った心の奥には何があったのでしょうか。自分らしく生きるのにちょっと息苦しい今の社会へのプロテストソングだったのか。深読みしすぎかもしれませんが、自分らしく生きる道を模索している人は、少年少女も青年も中高年も老人世代もなんら変わりがないのです。
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