ネーミング

2020年東京オリンピック・パラリンピックまであと2年となった先月、大会マスコットの名前がそれぞれ「ミライトワ」「ソメイティ」と決まりました。全国の小学生による投票で選ばれたキャラクターは大人の目からは少し子どもっぽいなあという印象ですが、世界的にも愛好者の多い日本のマンガ、アニメ、ゲームのキャラクターそのもので、カワイイ文化の象徴かもしれません。形が決まりそれに名前が付いたということで、いよいよマスコットに命が吹き込まれ、いざ本番に向かって真っしぐらという気分が高まりますね。

新しいものが生まれそれに名前を付けるとき、何かときめくものがありませんか。新たに誕生した命への名づけは、神聖な気持ちや厳かな気分のもとで行われることがほとんでしょう。というのも、日本人の心の中に古くからことだま(言霊)信仰があり、生身と名前が密接不可分という思いがあるからです。名前の意味が人間本体に影響する、心に染みてくるという意識です。例えば命名の際、勇気や誠実さを持つ男の子に育ってほしいという願いを込めて勇や誠にしたり、愛情豊かな優しい女の子にと愛や優の文字を付けたりしますが、これも名前が生身に乗り移るという言霊信仰があるからでしょう。ペットなどの動物に名前を付けると急に愛着が湧くという人が多いのもその影響からでしょう。生き物にとどまらずモノやコトにも名前を付けるのが好きな日本人は、ネーミングの天才なのかもしれません。NHKのネーミングバラエティー『日本人のおなまえっ!』を見ていると、世界最多?の何万種類もの名前に込められた先祖の深い思いがひしひしと伝わってきます。

東京都心をぐるり一周するJR山手線の品川駅と田町駅との間に新たな駅が誕生します。オリンピックに合わせて暫定創設されるもので、山手線では1971年の西日暮里駅誕生以来の新駅となります。新駅名はJR東日本初の一般公募により今年12月までに決定、発表される予定です。すでにネット上では、ネーミングを楽しんでいる人がたくさん見受けられます。新駅建設現場の港区港南周辺の地名から「高輪駅」や「芝浦駅」といったストレートな名前や、二つの地名をくっつけた「高輪芝浦駅」や「三田芝浦駅」、高輪と浜松町を合体させた「高浜駅」、最近はやりのカタカナ、ひらがなまじりの「しながわ新都心駅」や「品川ベイシティ駅」、近くに忠臣蔵の主人公を祀った泉岳寺があることから「泉岳寺駅」「忠臣蔵駅」「赤穂浪士駅」、さらに古典落語の人情噺「芝浜」の舞台となった浜が以前あった縁で「芝浜駅」……と、さまざまな案が寄せられているようです。一方で、一度名前を変えられたものが元の名前に戻されるかという事態も起こっています。東京都立大学です。2005年に都立科学技術大学、都立保健科学大学、都立短期大学とともに再編されて「首都大学東京」と改名したものの「レベルは高いのに知名度が低くて就職活動で不利」という声がくすぶっていたようです。小池百合子都知事が「都立の大学とわかりやすく発信するため、東京都立大にするのも一つ」と名称変更の検討を始めました。都立大のメインキャンパスが1991年まであった目黒区には東急東横線「都立大学駅」が今も変わらずに存続しています。地元住民の愛着と要望で本家がいなくなった後も名前を守っていたのです。たかが名前、されど名前。人や土地の名前に内蔵されたエネルギーや魂というものを、旧盆のこの季節に少し考えてみるのも一興ではないでしょうか。

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