はやぶさ2

コロナ禍という暗いトンネルから抜け出せる見通しが立たず、長くよどんだ空気に包まれていると、ついつい下を向いてしまう人いませんか。そんなときは、抜けるような青空を見上げるか、夜空に浮かぶ満月や微妙に輝く星々に目をやるのが一番いい薬になりそうです。そして、今年の冬には胸がわくわくするような特別ショーがあります。12月5日に小型無人探査機「はやぶさ2」が地球に帰還する予定なのです。2014年12月3日に打ち上げられてから小惑星「リュウグウ」に到着、岩石のかけらを採取して回収、再び宇宙空間を飛翔してひたすら地球めがけて帰ってくる、という壮大な宇宙の旅ミッションが完遂する日が近づいています。

多くの日本人が熱い期待を抱くのは、初代「はやぶさ」の感動が今も強く胸に刻まれているからでしょう。2003年5月打ち上げ、小惑星「イトカワ」に到達、岩石採取して2010年6月地球に帰還、無人小型探査機として世界で初めて天体サンプル回収に成功・帰還という偉業でした。ただし、すべて順調にいったわけではありません。高さ1.5メートル、幅も1.5メートルといった小柄な飛翔体は、何度も通信途絶して行方不明になり故障も繰り返し、もうだめかという寸前までいきました。でも、粘り強い地上スタッフの知恵と工夫により何とか帰れたという人間ドラマが生まれました。帰還直前までは少数の宇宙マニアしか関心がなかったのが、傷つき死にかけたものが何度も甦ったというフェニックス(不死鳥)神話となって、老若男女の心に勇気と元気をもたらしてくれました。当時の天皇陛下が「行方不明になっても決して諦めず、様々な工夫を重ねて、ついに帰還を果たしたことに深い感動を覚えました」とお言葉を発し、文化系に与えられることの多い菊池寛賞も、日本の科学技術力を世界に知らしめ、国民に希望と夢を与えてくれたという理由で授賞しました。映画、小説、アニメ、漫画、舞台でその快挙が反復され、私たちに誇らしい気持ちを植え付けてくれました。

先日、アメリカNASAの無人探査機「オシリスレックス」が小惑星「ベンヌ」に着陸して岩石採取に成功というニュースがありました。2023年9月帰還予定でNASAとしては初めてとか。この惑星探査、岩石サンプル回収というミッションは今や日本のお家芸ともいえる分野です。太陽系の成り立ちを探るのが目的という、いまだ謎の多い地球環境の解明にも役立つ、人類の英知に貢献する研究です。今、中国、アメリカの超大国が宇宙軍を創設して、宇宙研究が軍事目的に大きく傾きつつあります。そんな中で、宇宙のことを地球民みんなで考えようという取り組みこそ、自分さえ良ければいい、〇〇ファーストという悪しきウイルスを撃退するワクチンになるのではないでしょうか。武器で相手を脅して屈服させるという軍事力によるハードパワーがまだまだ力を持つ中で、インスタントラーメン、カラオケ、漫画、アニメ、デジタルゲームといった人々の生活を楽しく豊かにする文化・芸術分野のソフトパワーを生み出す力が、日本の特技であり魅力です。宇宙から回収する岩石は微量ですが、「はやぶさ」が発信するメッセージは、世界の人々に広く受け止められ地球上に大きく拡散するはずです。ニッポン、いいこと、やるじゃない!と。「はやぶさ2」本体からオーストラリアの砂漠めがけて投下されるカプセルが大気圏を通過するとき、何秒か炎に包まれる。その光が希望と絆の印、と感じる人が地球上にどれだけいるでしょうか。小さくてもキラリと光る国、いいね!

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