記録的な猛暑続きで、熱中症による死者が7月下旬だけでも100人を超えた2010年の夏。こうなると、日ごろ何気なく口にしている水が、ありがたい「命の水」に思えてきます。蛇口をひねるとあたりまえに流れてくる水道水が今、見直されています。ミツカン水の文化センターが実施した水にかかわる生活意識調査によると、東京、大阪、中京圏の在住者1500人は、自分の都市の水道水に高い評価をしていることが分かりました。10点満点で全体は7.23点とほぼ合格点。最も高い得点は中京圏で7.67点、ここでは10点満点を付けた人が7人に1人もいました。次いで大阪府の7.13点、低いとはいえ東京都も6.90点とまずまず満足といった状況でしょう。
歴史を振り返ると、一度失った信頼はなかなか簡単には戻らない、というのが実感です。60~70年代の高度経済成長と引き換えに環境破壊が進み、東京都の水道水の取水源である利根川、多摩川の水質汚染が深刻化したのに、浄水機能が追いつかず、80年代にはカルキ臭が強い「まずい水」となり、発がん物質ともいわれるトリハロメタンも完全除去できない安全でない水との不評と不信を一挙に背負いました。バブル経済時代の到来もあって、「おいしい水は有料で」と外国産、国内産のミネラルウオーターが日本人ののどを潤すようになり始め、今もコンビニの棚の定番となっているほどです。
しかし、身近な水道水は命を支えるのに不可欠な生活基盤との危機感から、各大都市が90年代から本格的に水道水の水質改善に乗り出し、水源から蛇口まで一貫して近代化、科学化、省エネ化を進めました。浄水施設にオゾン処理と生物活性炭吸着処理という高度浄水処理技術を導入し、安全でおいしい水が戻ってきたのです。今ではご当地の水道水入りのペットボトルも販売していて、東京は「東京水」、大阪は「ほんまや」、名古屋は「名水」と銘打って、盛んにPR中です。足元の環境を変えれば、私たちの生活の質はよくなる、その見本を示された思いです。安全でおいしい水を供給する日本のインフラ技術は、いま欧米の水メジャーと張り合いながら、世界各地に日本の成功体験を輸出しようとしているところです。真夏の夜、ひねれば出る水道水を飲みながら、飲み水の供給が不安定な国々の人々を想像するのも、世界平和を考える小さな一歩かもしれません。
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