大学の教室にざっと学生が50人。「新聞を毎日少しでも読んでいる人は?」という先生の問いに、手を挙げたのは5人ほど。学生のおよそ半分は親と同居し自宅から通学しているのに、それでもその程度。中には「我が家は新聞をとっていません」と、親自身が購読していない家庭もいくつかあるようだ。若者だけでなく社会全体の新聞離れもここまで来たか、と先生は改めて時代の変遷を痛感したという。その代わりというか、学生全員が所持しているスマホで、日々のニュースを検索しているから、社会の動きにうといわけではありません。新聞1紙を読む人よりも情報量を比べれば、むしろ多いかもしれない。ネット社会到来で、ニュースの受容の仕方だけでなく、発信する方も大きく変化してきているのが現実です。
ネットニュースといってもさまざまです。まず、従来から紙の新聞を発行している大手の新聞社は、ほとんどが自社のホームページでニュース提供しています。新聞紙の購読部数は1997年をピークに減少傾向が続いており、各社はネットでの購読契約で新たな収益を図ろうとしています。ただ、10数年前に始めたときから無料提供してきている実績があだとなって、ネットはタダという習慣が普及してしまい、数年前から新たに有料購読サービスを始めている新聞社も、有料読者獲得には苦戦しています。世界的には米ニューヨークタイムス紙などごく少数が成功している程度。逆に、ネット時代に新しく出現したのは、多くのマスメディアからの情報を買い集めて独自に編集して提供する、いわゆるポータルサイトです。ネット時代の花形、ニュース供給源として大きな存在となっています。例えば、日本では最大手の「YAHOO!JAPANニュース」では、国内・海外の新聞社・通信社・雑誌社など60社と契約し、約200ものマスメディアからニュース配信を受け、膨大な量の種々雑多なニュースを取捨選択して、独自の編集を施して画面に出しています。他のニュースサイトも構造はほぼ同じ。大半は既存メディアのニュースを買って独自の見出しを付けて流す、という加工業です。収益の源は広告費。たくさんの閲覧者(アクセス)がないと広告スポンサー収入が入らない仕組みなので、勢い、映画・テレビ情報、俳優・タレントの話題など大衆の興味を引くニュースが前面に出ます。日本よりネット社会が進んでいる韓国には、そうしたネット新聞社が6000もあり、激しい読者獲得競争が繰り広げられ、中には人気ランキングの高いニュースをコピペして数種類にも加工し、記事の内容と異なる刺激的な見出しを付けて読者を釣るケースも目立っているそうです。
ネットの登場は「第二の産業革命」とも言われています。ことジャーナリズムに関しては、誰でもが記者になれる、つまり世界に向けて私たち一人一人が発信できる、という革命的なメディアだということです。しかし、光があれば陰もあるのが世の習い。プロフェッショナルの新聞・テレビ記者は、取材した内容を事実かどうかの裏付けをしたうえで世間に流す訓練をしているのに対して、素人は自分が知っている情報を十分な裏付けのないまま流し、プライバシーを侵害するような内容も平気で流すこともあります。今夏、大阪府寝屋川市の男女中学生が殺害・遺棄された事件の際、ネット上で犯人捜しが行われ、結果的に容疑者ではなかった人物の実名や顔写真がネット上に流出しました。まさしくネットリンチです。名誉毀損に当たりますが、発信者は匿名の陰に隠れています。誤報が誤報のまま次々とネット上で拡散する危険性も現実になっています。スキャンダルをネット上で流されて、自殺に追いやられた女優が韓国内では何人もいます。だからといって、中国のように国家に敵対するような情報はネット上で遮断する政策をとるのは、自由な情報の流れを止めてしまい、息苦しい社会を生み出しかねません。21世紀のネット社会を、これからどう育てていくべきか。答えのない壮大な実験です。私たち一人一人が、パソコンやスマホを使いながら、ネット社会をどう育てていくか、日々考えて自分の意見を持つことが大切になりそうです。
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