あの熱狂は一体何だったのだろうか。2020年のオリンピック・パラリンピックの東京開催が2年前に決まったとき、日本国中が歓喜と興奮に包まれました。「お・も・て・な・し」が流行語になり、日本を訪れる外国人もうなぎ登り。景気向上にもつながり、国民共通の楽しい目標ができて、世の中が明るくなりました。しかし、大会のメインスタジアムとなる国立競技場の建て替え問題となると、二転三転の迷走、デザイン論争、総工費の高騰化、コスト負担の不明確など問題山積の混迷続き。果たしてこんな状態で大会は成功するのかと冒頭の嘆きがあふれ、暗い気分に覆われかけています。
そもそもの発端は3年前。新国立競技場建設のデザインを世界中から公募するコンペティションの結果、イラク出身で英国在住の女性建築家、ザハ・ハディドさんの案が選ばれたことからです。流線型の2本の巨大アーチが競技場を包み込む開閉式屋根付きドームで、まるでスーパーカーが宇宙を飛ぶような斬新なデザインです。東京招致のプレゼンでも、このデザインが売りになりました。ところが、開催決定後、いざ設計施工が具体的になると、当初の総工費1300億円が3000億円に膨張、一度は1650億円に減ったものの、結局この6月に2520億円に落ち着きましたが、開閉式屋根は五輪後に付ける予定という。メインスタジアム建設費は08年北京大会の“鳥の巣”が約500億円、12年ロンドン大会のときが約600億円。いかに新国立が突出した高コストか、わかります。著名な日本の建築家からは「神宮の森の環境に合わない」と景観上からも反対の声が上がり、総工費1600億円の簡素な設計まで発表されました。結局、ほぼ当初のコンペ案通りで行くことになりましたが、建設費のアテがまだ半分も付いていない現状です。建設主体の独立行政法人「日本スポーツ振興センター」を所管する文部科学省は東京都に500億円出してほしいと希望するものの、舛添要一東京都知事は、都民に説明できないカネは一円たりとも支払えないとすげない答えだ。不足分は「ネーミングライトで企業から」「スポーツ振興くじ(toto)で一般から広く集める」などの案が出されていますが、何百億円もの資金が集まるか、不透明のままです。
オリンピックやワールドカップなどの国際スポーツイベントを成功させるためなら、いくら金がかかってもいいという時代は過去のものになりました。「サッカー王国」ブラジルで開催された昨年のワールドカップでも、「サッカーより我々の暮らしにカネを!」という抗議デモが大会中も続いていましたし、ギリシャのデフォルト(債務不履行)も04年オリンピック開催の財政負担が遠因といわれます。お隣り、韓国のピョンチャンで18年開催の冬季オリンピックでも資金不足で施設建設が大幅に遅れており、開催を返上すべきだとの声が上がっています。国家の威信や国民の見えを優先する時代ではなくなりつつあります。とくに先進国の民主主義社会では、納税者意識の高まりが顕著です。東京都に500億円負担をとの報道に対し、街頭インタビューに答えた東京都民は、国が払うべきもの。都民としては納得できないと答え、幼児の手を引いた若い母親が、そんな大金、児童保育の充実のために使ってほしいと話していたのが象徴的でした。「サーカスよりパンを」「祭より日常生活を」優先、充実してほしい。成熟した市民社会の本音なのでしょう。そもそも「コンパクトな大会」「エコ五輪」と銘打っていた東京大会。もう一度、この原点に返らないと、金メダル争いよりも金集めに奔走というイメージが広まってしまいます。これから後に大会を開催する都市にとっていい見本になる、それこそが金メダルではないでしょうか。
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