食欲の秋。おいしいものが豊富に出回る季節を迎えました。ユネスコ無形文化遺産に登録された和食は、四季折々の食材に感謝しつつ、日々の料理にそれを生かしている点が評価されたもの。まさに海の幸、山の幸に恵まれた環境を大切にしたいという願いが込められています。とはいえ、美味礼賛の裏では深刻な事態も進行中であることを忘れてはいけません。食品ロスです。本来食べられるはずの食糧が、世界全体でなんと3分の1も捨てられているという統計があります。日本だけでも年間632万トン(2013年統計)。これは世界全体の食糧援助量の2倍にあたる膨大な量、といってもピンと来ないかもしれませんが、われわれ一日一人当たり茶碗一杯分のご飯が廃棄されている計算と聞くと「え?そんなもったいないことを!」と驚く人が多いで しょう。何とかならないのでしょうか。
大小さまざまな取り組みが各国の現場で始まっています。まずは残さない工夫から。宴会やパーティーで供されるご馳走は、とかく大量に残ってしまいがち。残さない方法はないか。長野県松本市の人々が取り組んだのが30・10(さんまる・いちまる)運動です。会食や懇親会の席では、始まりから30分とお開きの10分前には自分の席でしっかり出された料理を食べて、極力残さないようにしようという呼びかけです。飲食店や宿泊所向けから始まったこの運動は今や家庭内にも広がり、全国のあちこちでも実践の輪が広がっているようです。まさに、もったいない精神の発露です。大量廃棄が生じがちのレストランでも経営課題として真剣に取り組むところが増えています。創業30年の和食ファミリーレストラン「華屋与兵衛」チェーン(全国140店舗)は、米飯が主力。栗林徹社長は「なるべく炊き立てのご飯をお出しするので、今は0.5~0.7%のロスが出ていますが、朝・昼・夕方・夜、その日の天候などを基に細かい炊飯計画を立てて、極力、ロス0%にしていきたい」と企業努力の姿勢を示しています。ドイツのレストランでは取り放題のバイキング方式で食べ残した場合、客から1ユーロの罰金を徴収する店も出てきたというニュースもありました。
作る方も、食品をなるべく長持ちさせて廃棄量を減らす努力が進行中です。材料から酸素を極力排除して賞味期限を7カ月→10カ月→1年と延ばすことに成功したマヨネーズメーカーのキューピー。開封後に新鮮度が180日も保たれる容器で売り出した醤油メーカーのヤマサ醤油。しかし、そうした商品が置かれるスーパーやコンビニなど売り場には食品ロスを発生させる「3分の1ルール」が厳然としてあります。製造されて最初の3分の1が店に運ばれる期間。次の3分の1が店頭に並ぶ期間。そして最後の3分の1で売れ残ったら店から撤去、廃棄へと向かうという業界のルールです。賞味期限の延長や大幅値引き販売など、改善策にもっと知恵を絞ってほしいものです。農作物を作る現場にもロス減少策が広がっています。今まで捨てていた規格外の農作物を格安で引き取って、都会の消費者に3~4割安で提供するネット販売業者が日本やアメリカで増えてきています。「食品ロス50%削減」を政府が打ち出したアメリカでは、行政・企業・慈善団体が手を組んで生活困窮者に無償で食べ物を配るフードバンクが各地に生まれています。残飯を家畜飼料にして食べ物を無駄に捨てないという取り組みも次第に広がっています。「食べ物を大切に」と子どもにしつけた昭和の風が再び吹いているのでしょうか。東京だけでなく、地球全体を覆う風の流れは、「おもてなし」から「もったいない」へと風向きが変わってきたようです。
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