新しい年を迎えるとき、「さあ今年こそ」と雄大な目標を立てたり、壮大な夢を描いたりして、「この一年を飛躍の年にしたい」と願う人は少なくないでしょう。個人だけでなく、年頭には国・政府もそんな大きな将来像を掲げて、国の進むべき道を示して、国民をその方向に引っ張っていきます。長い鎖国体制を守ってきた江戸幕府から開国に舵を切り替えて誕生した明治維新政府は、欧米列強の進んだ科学技術・軍事力を目の当たりにして、追いつき追い越せと、「富国強兵」を国家目標に掲げました。目指すべき目標は上り坂の先に見えている。そう、作家・司馬遼太郎が書いた「坂の上の雲」だったのです。追いついたと思って欧米列強と張り合ううちに、東アジア、東南アジア各地を軍事力で日本色に染めて帝国の版図を広げようとしたら米英勢力と激突。そして1945年の敗戦・無条件降伏という結果になった。「強兵」という国家目標が行きつく果てだったのでしょうか。
その反省から、戦後は「戦争しない国」に、少なくとも「こちらからは戦争を起こさない国」という指針を憲法で掲げながら、とにかく一生懸命に働いて稼いで豊かになろうと、戦後復興、経済成長の旗印の下でやってきました。国民の勤労成果が実って、世界の国々からは羨ましがられるほどの奇跡の高度経済成長を遂げ、80年代には経済大国なる称号も与えられて、国家プライドも回復しました。さて、そのあたりからどうも、追うべき雲・目標が見えなくなったのか消えたのか、日本という国の針路が見えにくくなってきました。数字上は豊かになったけど、なんだか幸せ感が薄い。では、もっと経済成長すれば幸福は増すのか。悩み始めます。21世紀に入って韓国、中国の経済成長によって国家間の軋轢が増すと、軍備を増強して周辺諸国ににらみを利かすパワーを持つべきだという声が大きくなって、今に至っています。さあ、揺れ動く世界情勢の海図の中で日本丸の針路をどう決めるべきか。年頭にあたって、私たち一人一人も自分なりに望ましい国家イメージを描いてみたらどうでしょうか。
進む道を考えるとき、まず自分の長所・得意技と短所・ダメなところを洗い出すと判断しやすい。日本という国をみると、マンガ・アニメ、カジュアル衣料ファッション、家電や化粧品など便利で高品質の日常製品群、ユネスコ無形文化遺産に登録された和食など、世界の多くの人たちに称賛される文化を生み出してきました。短所と言われてきた自己主張の弱さも、押し付けない、謙虚できめの細かい「おもてなし」というホスピタリティと見直され、むしろ強力な魅力に転換されました。モノだけでなく、ヒトの魅力も世界の人たちから認められるようになったわけです。科学技術の世界を見ると、昨年のノーベル賞受賞者、大村智さん、梶田隆章さんの研究業績が自国の利益のためではなく、人類のすべてに役立つ内容だったことも、日本人の評価を著しく高めました。軍事力というハードパワーで世界を睥睨する「大国主義志向の道」がある一方、文化や芸術といったソフトパワーで多くの国々から尊敬や信頼を寄せられる「豊かな生活重視社会への道」もある。両方の混合の道もさまざまあります。負の側面といわれる世界一の超高齢社会、原発事故の処理、地震・津波などの自然災害も、ピンチはチャンス。困難な課題を世界に先立って解決すれば、同じ悩みを抱える後続の国々の模範となることは間違いありません。今年は夏に参議院議員選挙があります。我が国の歴史で初めて18歳・19歳が選挙権を持った画期的な選挙です。身近な問題も大切ですが、私たちの国のカタチという大きなデザインを頭のどこかで描きながら、老若男女みんなが投じた一票が豊かな知恵の結集となる。そんな選挙結果になればいいなと願っております。
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