猛暑と集中豪雨と洪水被害。この夏はそんなイメージが強く残る季節でした。もう一つ、仙台市では36日間も雨が降り続き、83年ぶりに降水連続日数最多記録を更新するなど、東北地方の日照時間が平年よりグーンと 減ったという一面もありました。「寒さの夏はおろおろ歩き…」という宮沢賢治の詩が思い出されて、農作物への冷害の心配があります。でも、いよいよ9月。爽やかな秋を期待したいですね。実りの秋には美味しいものをどっさり味わいたい。「何が食べたい?」と街角でテレビリポーターがマイクを向けると、子どもや若者たちの多くは「焼肉!」と答えています。焼肉の格安店や食べ放題店も繁盛しています。ただ、外食用やハンバーグなどの加工品に利用される冷凍牛肉に対して今夏、緊急輸入制限(セーフガード)が発動しており、主な輸入先である米国産牛肉の卸売価格が上昇しています。秋には店頭での値上がりにつながるかもしれません。
そんな流れの中、動物の肉を一切使わない人工肉の開発が盛んだというニュースがアメリカから伝わってきました。カリフォルニア州シリコンバレーで開発された「インポッシブル・バーガー」という代物です。インポッシブル=「ありえない」というネーミングが何とも面白いですが、研究開発の主はスタンフォード大学名誉教授(生物化学)というから、単なるジョークではありません。この教授の説明によると、大豆、大麦、ココナッツなどの植物からたんぱく質を採取して組み合わせることで、味も栄養価も見た目もジューシーさも歯ごたえも、本物の牛肉そっくりに出来上がるというのです。これを生産するインポッシブル・フーズ社は、ニューヨークなどのハンバーガーショップで1個14ドル(約1600円)で販売しており、テレビリポートによると、客の反応は「本物の肉とあまり変わらない」と、まずまずだったそうです。この企業にはマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が100億円以上も投資したそうです。また、ほかにも違った材料と異なった作り方で人工肉を生産・販売するベンチャー企業も続々出てきており、人工肉の研究開発競争が未来につながる可能性を感じます。
その根底にあるのが、近づく食糧危機と地球環境の悪化への不安です。2050年には今の地球人口72億人が100億人へと急増する人口爆発が起こり、食糧危機の到来が予想されます。牛や豚など家畜1頭を養うのに必要な水や飼料の量は食用植物栽培の4~10倍、全世界の家畜が放し飼いされている土地面積はアフリカ大陸と匹敵するという計算もあります。今秋日本にもアメリカから人工肉が上陸しそうです。物珍しさから話題になるでしょうが、さて、日本産の人工肉が誕生する勢いになるかどうか。それはそれとして、本物がないなら代替品で工夫するという思考は日本人の得意技です。雁もどき、カニカマなど、本物に似せながらも本物とは異なる美味に仕上げる、日本人の知恵と言っていいでしょう。もどき料理は肉食を禁じた仏教の教えから生じたものが多く、今では料理のサイトに何千ものもどきレシピが挙げられています。車麩の角煮など一見おいしそうな肉の角煮そのもの。古くから日本人の心の中に見立てるという美意識がありました。現実のAを別のBだと思い込むことによって生じる独特の雰囲気を楽しむ。やまと絵や水墨画で見られる、刷毛で掃いたような線を雲に見立てて、立体感や遠近感を出す。落語の「長屋の花見」のように、貧乏長屋の連中が大根を蒲鉾に、沢庵を卵焼きに見立てながら花見の宴を楽しむ。そんな一見するとやせ我慢のような感性が、新たなものを創造するエネルギーにつながったのかもしれません。もどき大国ニッポン、がんばれ!
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