郊外の駅前で夜、自宅に帰ろうとタクシーを待つ人たちの長い列。よく目にする光景です。同じ方向に帰るなら相乗りすればいいのに。でも現行法規で禁じられています。その相乗タクシーの実証実験が1月24日から東京都内で始まりました。ここ十数年でタクシー利用客が半分近くに減っているため、利用者を増やそうという模索です。それ以上に強い危機感があります。「ライドシェア」という強敵が日本に襲来かもという“黒船不安”です。プロが運転するタクシーではなく自家用車を持つ一般人が、空いた時間にスマートフォンで呼び出された一般利用客と、互いの条件が合えばマイカーを運転して目的地まで運んで、タクシーより安いながらも“運賃”をもらえる、というサービスです。アメリカでウーバー社が2010年に創業すると、急速に利用が広がり今や50カ国を超える普及ぶり。日本では現在「白タク」として禁じられていますが、スマホで簡単に利用できることから「日本でも解禁を!」という声が出ています。
より広く普及しているのが宿泊施設です。これもアメリカのエアビーアンドビー社が2008年に始めたサービスで、一般人の家や部屋を旅行者に貸すというもの。旅館やホテルでなく、普通の個人が所有する部屋を一時的に貸すわけです。これも登録した部屋所有者と宿泊希望者とがインターネットなどでやり取りして、当事者間でOKならば契約成立というシステムです。いわゆる民泊提供者が日本でも次々と登録され、すでに50万人以上の外国人が利用しており「普通の日本人が住んでいる家を体験できてよかった」と好評で、利用者数は急上昇中。政府も認知して住宅宿泊事業法(民泊法)が成立し、今年6月から全国規模で解禁されます。空いている、あるいは遊んでいるクルマや部屋を不特定多数の人のために利用してもらい、それで何がしかの利益をいただくというシステムです。アメリカ・シリコンバレーのベンチャー企業が始めた新ビジネスは「シェアリングエコノミー」と呼ばれ「個人が所有する遊休資産やスキルの貸し出しを仲介するサービス」と定義されています。この二つの成功で火がついて、今や家具、衣服、家事、介護、食事配達、旅ガイドなど幅広いジャンルに広がっています。モノだけでなく、自分の持っている才能、知恵を役立てた上にお金と生きがいもいただけるとあって、地域社会の高齢者に活気を与える効果も出ています。
この急速な拡大・普及の背景には、モノを所有するより必要な時に使用できればいいという意識の変化があります。「最近の若者はクルマを欲しがらない」という声がずいぶん前から聞かれますが、クルマだけではなく、日常の衣服類や住宅も買わずに借りればいいという意識が親世代よりも強くなっています。人気のテレビ番組『テラスハウス』のように、男女6人が一つ屋根の下で共同生活を送るのもファッションとなりました。一所懸命に働き右肩上がりの給料を手にして、欲しいものを次々自分のものにした高度成長期の青春群像とはかなり違った姿です。駐車場、店舗、会議室も他人に貸すなどシェア領域は拡大しています。しかし、リスクもあります。だって見知らぬ人同士が貸し借りするわけですから、どんな人物かがわからないと不安です。そこでシェアリングエコノミーの場合、ユーザー同士の信頼度を高めるために、ネット上で利用者の評価(レビュー)を公開しており、利用前から判断材料をオープンにするのが原則です。さて、シェアリングエコノミーは世界経済を救うのか、はたまた市場経済を縮小させるのか。インターネットや人工知能の出現が引き起こした第4次産業革命は、とかく人と人との関係を薄くしていますが「共有、シェアする」という発想が強くなると、今よりもっと人と人とを繋げて共存・共生意識が高まって、ひいては世界平和増進のエンジンになることを願います。
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