大相撲初場所は、西前頭17枚目、つまり「幕尻」の德勝龍が14勝1敗で初優勝という劇的な幕切れとなって、国技館が大歓声に包まれました。十両と幕内をいったり来たりしていた、大した実績もない33歳の力士の奇跡的快挙でした。一方で、白鵬、鶴竜の両横綱が序盤で連敗して早々に休場、大関豪栄道も負け越して大関陥落、場所後引退という異常事態から、「新旧交代」「世代交代」を象徴する場所だったとも言えるでしょう。角界の次代を担う朝乃山、遠藤、正代、御嶽海らに加え、小兵ながら大きな力士を翻弄する炎鵬らの若手が躍進してきて、大相撲人気も続きそうです。一世を風靡したスターが消えても、新たな人気者が台頭してくるという理想的な新旧交代劇です。
ところが、芸術や文化の世界では高齢化だからといって、若い時と比べて能力が落ちて作品の価値が下がるとは言い切れません。歌や芝居では声や演技に円熟味が出てきたという評価もあり、自分から引退して、後継者にバトンを渡すという決断はなかなか難しいようです。それ以上に難しいのは経済界でしょう。ひとたび企業のトップの座に就くと、自らへの批判を封じるワンマン経営者となり、最高権力の椅子を容易に明け渡さないどころか、後継者候補を次々とつぶして自己保身を図り、長期政権を維持したがる例は枚挙にいとまがありません。独裁的なトップの下では、追従や忖度や陰口が組織内に充満しやすくなり、有能な社員が去っていく事態もよく見られます。グローバル経済下、デジタル通信革命がものすごいスピードで進行中の今、かつての成功体験が、むしろマイナスに作用することも多い現代経済社会。スマホ決済の不具合の理由を問われた企業トップが、基本技術の無知さ加減を露呈して、失笑を浴びたケースも昨年ありました。経営環境の激変ぶりの怖さを実感した経営者も多かったはずです。次世代の技術と経営戦略に知悉した若き後継者を早くから見つけ、バトンタッチの用意をしておくことが、今の経営者の大きな仕事になってきました。
もっと深刻な事態に陥っているところがあります。日本の企業の大多数を占める中小企業、自営業の現場です。ここ数年、新旧交代したくてもできない「後継者不足」現象が続いています。経営者が高齢化して、これ以上仕事を続けられないという事態が全国で起きていて、会社を我が子に継がせる、あるいは見込みのある従業員に任せる、でなかったら会社そのものをM&Aで売るといった選択肢がありますが、それも併せて全体の半分程度。残りは年間数十万件という単位で仕事そのものをやめる廃業手続きが取られています。その多くは黒字企業というから、もったいない。政府は昨年「経営承継円滑化法」を改正して、金融支援や税金猶予などの特例措置を決める一方、「事業継承マニュアル」でスムーズな新旧・世代交代を促しています。だけど実際には、親から子への事業継承も、価値観が多様化している今、他の職業に就いている子どもが継ぎたくないというケースも少なくありません。仮に我が子に継承できても、経営方針の違いから親子で骨肉の争いになった家具店のケースもありました。日本発祥の駅伝競技では、一本のたすきが次々と繋がれていきます。次は頼むよという信頼感で結ばれているのが、日本人好みなのでしょう。新旧・世代交代も、駅伝競技のようにスムーズにいけばいいのですが。
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